1.支部長ご挨拶

            支部長選任にあたり (2023/6~)

小森 憲昭
・1962年(昭和37年)名古屋出生
・1984年  京都大学 工学部電気第二学科 卒業
・1986年  京都大学大学院  工学研究科 電子工学専攻(加藤研)修了
・1986年~ 中部電力株式会社
・2020年~ 株式会社シーテック
・2023年~ 愛知金属工業株式会社

このたび、洛友会中部支部長に選任されました小森でございます。
電気系同窓生の皆さまは、エレクトロニクス、自動車、鉄鋼、鉄道、電力、IT情報通信、金融、商社、放送などの企業、官公庁、研究機関、大学などにおいて幅広くご活躍されてみえます。また、新たな起業領域においてもご活躍の場を広げてみえます。同窓会に対する思い・期待感は、人それぞれ違いがあると思います。
世代を超え、職種を超え、同窓ならではのつながりを生かしていただけるよう、持続性ある支部活動を進めてまいる所存です。
皆さまのご理解、ご参加をお願いするとともに、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。

元支部長 挨拶 (2017/6~)

酒井 和憲
・1955年(昭和30年)生まれ、名古屋出身
・1978年 京都大学 理学部 物理学科 卒業
・1980年 京都大学大学院 工学研究科 電子工学専攻(川端研)修了
・1980年~トヨタ自動車
・2004年~株式会社アドヴィックス(自動車用ブレーキシステム)

・2019年~アドヴィックス退社、株式会社東陽テクニカ顧問

学生時代
・教養時代はクラブ(グライダー部)に没頭
・学部時代にマイクロプロセッサ(4ビット)が身の回りに広がっていた
・理学部では実験装置を自作。同じ下宿に電気の学生が多くいたこともあり工学部に転向
・就職活動では、各社の開発競争(LSI、CD、ワープロ)を目の当たりにした
・自動車に漠然とした将来性を感じて、自動車会社に就職

自身の仕事の変遷
・自動車へのマイコン制御導入から自動ブレーキの実用化まで。実に大きな変化があった

支部長の抱負
1)エネルギーの変化や自動運転による交通システムの変化など、100年単位で見ても
大きな技術変化が起こっており、人口構成の変化と共に社会の形が変わりつつある。
洛友会中部支部はこの変化に先駆けており、世代・業種を超えた語らいの場を持つ
ことで、学びとともに豊かな社会に向けた思いを共有したい。
2)同窓会の楽しさと継続性を維持したい。

これから色々な工夫をしていきますので、皆さんのご協力をお願い致します。

マイコン導入から自動運転まで
群れないといわれる京大OBに期待すること

マイコン導入から自動運転まで
(洛友会会報2018年4月号掲載)

はじめに
自動車へのマイコン(マイクロコンピュータ)導入は、私がトヨタ自動車に入社した1980年頃になる。アンチロックブレーキシステムなどブレーキ電子制御の開発が私の担当だった。今では自動ブレーキは当たり前の商品になり、東京オリンピックの2020年には自動運転が実用化される。
40年を経て同じ巡り合わせを感じるのは、マイコンという新技術によって若手の私が新製品開発の主役を担えたように、人工知能(AI)によって若手が主役を張る時代がやってきたこと。大きな違いは、私の若手時代は新しいものはそのまま受け入れられたが、自動運転は社会を変えることでもあり、莫大な品質確保作業と共に既存ルールや既得権の見直しが必要であること。従って、若手の活躍を社会全体で応援する必要があるのだ。

学生時代
中学生の頃はアマチュア無線に夢中だったが、高校のときに理論物理学に惹かれて京都大学理学部へ進学。教養部では機体の美しさに魅せられてグライダー部に入部。岡山県吉井川での合宿と費用確保のバイトに明け暮れた。
グライダーの離陸は、凧を上げるようなもの。大型ディーゼルエンジンが巻き取るワイヤーに引かれて、時速100kmで300mの上空に至る。ワイヤーを切り離し、時速80km、沈下速度1m/秒で滑空する。単純計算では5分しか飛べないが、上空には所々に上昇気流がある。鍋で湯が沸くときの気泡のように、地表で暖められた空気が泡のように昇る。直径数十mの泡の中で旋回すると一緒に昇って行く。高度600m程で泡は消え、次の泡を探すのだが目に見えないので経験と度胸が必要だ。高度200mを下回れば着陸準備に入る。チェックポイントを通過し、常に同じ手順で安全に着陸する。自らの意志で自然と戯れつつ、最後のけじめはつける。グライダーは人生勉強にもなった。
理学部3回生では、理論物理ではなく物性物理に進んだ。核磁気共鳴の研究で、今や医療の断層撮影に使われているものである。研究にぴったり合う装置は自作せざるを得ない。必要に迫られて電子工学を使っていると、研究より装置製作のほうが楽しくなった。中学生時代の興味が蘇り、友人の勧めもあって大学院は工学部電子工学専攻に進んだ。
院では光集積回路の研究を行い、青色発光ダイオードの論文も読んだが、没頭したのは研究用レーザーの冷却装置。件の友人は新発売の4ビット・マイクロプロセッサを使ってコンピュータを自作していた。
就職活動では、電気系各社のLSI、CD、ワープロの最先端研究を見学しながらも、漠然とした将来性を感じた自動車会社に就職。今でこそ自動車は電子装置の固まりであるが、就職指導の先生からは「何故電気の学生が自動車会社に行くのか?」といぶかしがられた。

トヨタ自動車に入社
マイコンとそれを動かすプログラムは自動車を大きく変えた。当時の役職別に学生時代の学びを列挙すると、部長は真空管、課長はトランジスタ、係長はIC。マイコンやソフトウェアは新入社員しか学んでいない。またブレーキの横滑り防止装置などの新製品はオプション設定であり、万が一失敗しても装置だけ発売延期することが許された。従って、マイコンを扱う若手担当者にとって独断場であり、何もかも自分達で考えた。自動車の動きを検討して制御方法を考えたら、部品メーカーの技術者にすぐプログラムを作ってもらい、コンピュータを車両に組み込む。テストドライバーにデータを取ってもらい、自分達でもブレーキを踏んでみる。競合車とも比較しながら、お客様の一人として自分はどんな性能を望むのか?問題があったときお客様はどう感じるのか?何より交通事故を減らしたいという思いが強かった。何も無いところから始めたので、次々と成果があがった。自動車会社内の各部署と部品メーカー各社合同で十名ほどのチームが係長クラスをリーダーに一丸となっていた。
1991年からの3年間、東京本社に勤務。自動車工業会の一員として、電子機能の安全基準つくりを手伝った。音声を使ったナビゲーションシステムの認可にも関わった。
本社に戻ってからは、車載ネットワーク、スマートキーの開発を主導。2000年以降、車全体の企画に携わるようになると自動運転が夢になっていった。
2004年にトヨタグループのブレーキ事業を統合した株式会社アドヴィックスへ転籍し、現在に至る。

社会の大きな変化
エネルギーの変化や自動運転による交通システムの変化など、百年単位で見ても大きな技術変化が起こっており、人口構成の変化と合わせて社会の形が変わりつつある。
自動車の運転における「認知、判断、操作」の区分を応用して、仕事を「探す、決める、実行する」に区分してみる。マイコンは機械にやらせたいことを可能にする「実行」を補強する技術でもあった。やりたいことの候補を「探す」ことはAIが得意。探したことを提案してくれる。しかし「決める」ことは人間の仕事。いろいろな情報からルールを決め、変え、その責任を取ることは人間にしかできない。

若手の活躍を応援するために
日本は不寛容になったのか、何か問題が起きるたびにルールが増えている。本来はルールを見直し、複雑で不完全なものから、シンプルで効果の高いものに組み直すべき。しかし、忙しい管理者はついルール追加を許してしまう。皆が保身を優先すると、結局全体がうまくゆかなくなるのだ。ルール見直しを阻むものには既得権益者もある。時には自己中心の集団もあるが、多くは全体への悪影響を知らずに干渉を嫌う人たちだ。
太古より、若者の特権はルールを壊すことだが、現代のルールは複雑に絡み合っており簡単に壊すわけにはいかない。今の若者はルールでがんじがらめなのだ。だから過去にルールを作ったベテランたちは若手を応援しなければいけない。ルールの理由や弱点を伝え、より効果的でシンプルなルールに組み替えていくためだ。
自動運転を例に考えてみる。都市高速道路の自動運転実用化では制限速度が課題になる。法定速度が時速60kmとしても、人間が運用しているので融通を利かせている。法定速度は交通状況や運転能力を細かく判断しているわけではないからだ。自動運転になると可能な車間距離や速度は異なるだろう。従って人間とAIの特性を踏まえてルールを根本的に見直すことになる。効率を優先すると自動運転と人間の混在が得策ではない。既得権に関わるこのような議論には、公平性・透明性が必要になる。また、高齢者・障がい者にとっても、車椅子が入り込める自動運転の社会システムは逆に彼らの社会貢献を可能にする。

最後に
グライダーは一人で自由に飛んでいるように見えるが、地上の仲間全員が機体を見守っている。自分の順番を待つ間に風を読み飛び方の参考にもするのだが、互いに応援しあっているのだ。
若手が任されている社会の未来は明るい。既存ルールを作った人たちは若手に理由や弱点を伝え、高齢者でも既得権益の変更に力を貸すことができる。いろいろな人が様々な縁を通して若手を応援できるのである。
多様な人々に新たな縁を求めたいとき、同窓会が役に立つ。支部活動では様々な業界、年齢の人と直接お話しすることができる。思いもよらない人から気づきや新たな面識が得られることは、人生の楽しみにもつながると思う。

群れないといわれる京大OBに期待すること
~「人と組織の力を引き出す原則」の研究から~
(洛友会会報2019年4月号掲載)

はじめに
ゴリラの研究者でもある山極総長は、「群れない」といわれる京大生に対して「賢く群れよ」と京都大学のホームページに書いている。
情報技術の草分けである洛友会会長の長尾先生(元京大総長)は2018年の洛友会総会懇親会にて、「バウンダリイ(境界)の無い社会になってきており、自分の属する組織を超えた交流が必要である。それには同窓会が有効」と述べられた。
両先生のこの言葉は人の振舞い方を示している。また、私自身は経験則「新技術を使って新製品を開発する時には、多様な人が互いに助け合うことで大きく前進する」ことを、日本品質管理学会中部支部で発表した。
本稿では私なりにこれらの関連付けを試みた。

研究に至った私の課題認識
1980年に自動車会社に入った私は、当時実用化されたばかりのマイクロコンピュータを応用することで様々な新製品・新機能を開発するチャンスを得た。アンチロックブレーキシステムを例にとると、制御を通じてメカ系、電子系、車両評価実験、部品メーカーの仲間が集まって製品を作り上げていくのだが、前例がないので若い人達同志が試行錯誤しながら開発していた。当時の新装備は、開発に遅れが出たら発売を延期することが許されていたからか、若手にかなり任されていた。
昨今では人工知能が実用化され自動運転の実現に向けて多くの開発が進められている。昔と比べてすばらしく良いITツールを使っているものの、車の制御システムは複雑化し、業務が細分化されて様々な既存のルールにがんじがらめになっている。システムが複雑になれば新たなルールに組み直していかなければならないはずだが、時にルールを守ることを優先してしまう。多忙が原因ではあるが、ルールを守っていれば責任を果たせたというような一種の責任回避が横行。これでは人と組織が力を発揮できていない。過去の開発成功事例から、人と組織が力を発揮するのはどんな時かを抽出した。

経験則から抽出したもの
人と組織が力を発揮するために必要なものは、次の3つに分類できる。
1.良い目標となにかしらの資源を与えられている(経営の領域。防災でいう公助の領域)
2.自チームが成果を出すために仕組みやツールを活用する(防災でいう自助の領域)
3.他のチームが、役割を超えて自チームのアイデアや試しの協力をする(防災でいう共助の領域)
自助については様々な工夫やツールがあふれているが、共助については人に強く依存するところ。一般には当事者意識が高いといわれる人が担っている。最近では多くのチームが動いていて、かつそれぞれのテーマが複雑に関係しているケースが増えてきた。他のチームからアイデアをもらうことや、だれかがアイデアを提案したときに、うまくいくかどうかわからなくても回りが試すことを手伝えば、大きな成果を生み出す可能性が高まる。
私の研究は開発時における3.の共助を引き出す原則を明らかにすることに注目した。原則とおおよそのメカニズムは次のようなものである。

当事者意識発生のメカニズム
まず、組織全体の仕事を知る事
①組織の仕事・人の全体像が地図のように表され共有されている
②それぞれの仕事の要素が理解され、必要に応じて交換可能
このような状態では、一人ひとりがアイデアを思いつくようになる
次に、改善を行う動きが速い事
③関係者が集まった時に、短時間で仕様決定と記録ができる
④実際に改善が機能するかどうかを全体で試す機会を持つ
このような状態があれば、アイデアは具体的に提案となって上がってくる。
もう一つ、これらの4つを円滑に進めるための行動原則がある。
⑤若手、ベテラン、上司の役割を意識する
それぞれの役割として、若手は事実に基づき自ら考えることで成長する。ベテランは若手の失敗に備えるとともに、既存ルールを変える主体となる。上司は組織間の貸し借りを担保して気持ちよく仕事ができる環境を整える。誰しも経験や職位に応じて役割を持っている。
これら5つの原則によって当事者意識が発動し、アイデアが生まれ提案が出てくる様になる。

新技術を生かして社会を豊かに
新しい技術を使い豊かな社会を生み出すためには、自分たちのルールに固執せず、全体最適にルールを変えていく必要がある。ルールを変える前の段階で、関係者の協力を得て、試していく必要があるが、うまくいくとは限らないことを了解しておかなければならない。ルールを守っていればよいという無関心は、悪いルールも放置するようになる。最近話題になる不祥事の根本原因はここにあるのではないか。問題を提起しても解決されそうな気がしなければ誰も問題を上げてこないだろう。経験的に改善提案がどんどん出ている職場は、問題が隠されることが無い。
また、品質保証の優れた方法論に「変化点管理」がある。ただし、昨今のように全体が大きく変化してくると、逆に変化していないところに落とし穴が潜むようになる。実績があるということが正しさを担保しなくなるのである。

京大OB(特に洛友会)への期待
山極総長は「京大生が群れないことの真意は『自立独立の精神を持ち、仲間にむやみに迎合しない』ことであり、闊達な対話を通じて、他者に頼らない自由な発想を磨くために集まることを好むはず。」と続ける。
電気系教室の学問は、社会に大きな変革を与えてきた。技術革新により益々バウンダリイが無くなっていく。交通系のICカードを例にとると、日本中の鉄道やバス・タクシー以外に、コンビニや駐車場でも使えるようになっている。ユーザーから見るととても素直な仕組みだが、現実にはきわめて多くの組織やシステムが関わっている。ラッシュアワーの駅で改札が1分間止まればパニックが起こるはずだが極めて高い信頼性を保っている。
電力会社がガスを売り、自動車会社は移動サービスを売るようになった。益々多様な知恵が必要になるはずである。

皆さんへ(特に中部支部の方へ)
組織の中ではタブーになってしまうことも、洛友会で話してみませんか。異業種、世代を超えた人々が、大学とのつながりを持ちながら議論できます。新たな気付きや人脈が得られるかもしれません。
電気系教室歴代教授の年表が洛友会のホームページに掲載されました。教室がいかに社会に新たな価値観を与え貢献してきたかということが分かります。また、その中で自分自身がその一端を担っていることも分かります。自分のためだけでなく、周りを助けるというスタンスがやがて自分にも還ってきます。洛友会中部支部はそんな人たちを応援したいと考えています。
様々な方からの忌憚のないご意見を期待します。以下の京大OBアドレスでお待ちしています。
sakai.kazunori.p21*kyoto-u.jp
(*を@に置き換えてください)