会員寄稿(1)
洛友会会報 223号


スポーツとしての自転車

岡崎 徹(昭60年卒・関西支部)

 ここ数年でスポーツとしての自転車に乗る人が増えました。寒くなりめっきり減ってはきていますが、ちょっと山奥にドライブに行っても、自転車に乗っている人を見かけます。何を好き好んで、とお思いの方も多いと思いますので、ちょっとその紹介をしたいと思います。
 自転車には、日頃経験できない、とことんまで体を使い切る快感があります。峠を、さほど気合いを入れずに登っても楽しくありません。気合いを入れ、ぜえぜえ言いながら登り、頂上で道ばたにへたり込む。夏なら水筒から水をかぶる、生ぬるい水が甘露水になる。この瞬間の何物にも代え難い充実感、開放感。自転車の初心者と上級者ではタイムこそ違え、この感覚を味わうには関係無い、だれにでも到達出来る至福の瞬間です。車やバイクでは、その性能をフルに使い切る事はまずできませんが、自転車ではエンジン=自分の体をフルに使い切る快感があります。マラソンをされるかたのランナーズハイと同じ物と思いますが、両方する人によると、自転車の方が楽しいとか。
 友人達と車列を組み、遠出するのも楽しいものです。脚力の揃ったメンバーなら1日で200kmは楽に移動できます。話では24時間で東京大阪を走破する強者も居るそうな。遠出の時は、その行く先々で食べる物のおいしいこと。特にグルメな店に入るわけではありません。自転車はそこそこ慣れてくるとエネルギー消費がどんどん大きくなるため、兎に角お腹がすくのです。空腹に勝るレシピ無し、です。逆に、自転車で訪れて「絶品!」と思ったところに家族で行ったら、それほどでもなかったりして非難を浴びるという副作用もあります。
 工学的には(とは、大層な)、自転車を始めてからチューニングの重要性が身をもって感じるようになりました。極めて限られた体力を出し切って移動しますので、ひたすらに高効率ポイントを探さないと遅れをとります。これには色々な面での調整が必用で、タイヤの幅、ホイールの種類、潤滑油、ギアの歯数、サドルの高さ、姿勢、脚の回転数、着る物、食べた物、体調、などなど、機械的な事から体の事まで全てを高度にバランスさせた場合と、少しでもバランスの崩れた場合とで明らかな差が出てきます。自転車によっては30段変速、とかありますが、これはその最適点を見いだすための一つの手段です。
 機材に関してもうんちくを語り、愛でる余地があるのも、面白いところです。剛性を保ちつつひたすらに軽量化したパーツ類は、それぞれに最新・最先端の材料が使われています。それらを一つ一つ吟味し、自転車をくみ上げる事は何の資格も無しに出来ます。それに所詮は自転車ですから、世界最高性能の機材、エンジン以外、を揃えることもさほど財布を傷めずにできます。私のは世界最高レベルにほど遠いのですが、それでも色々いじって楽しんでいます。ある時、家内にチェーンの特殊なひとこまが500円した、と言ったらひたすらにあきれられました。それ以来、家内からは警戒されていますが、こちらも値段の事は滅多なことでは言わないようにしています。たまに自転車を指さされて「これはいくら?」と聞かれても、まさにその指が指している部分だけの値段は答えます。嘘はいけません。一方、洛友会メンバーはやはり目が肥えています。先日、関西支部遠足の下見は、僕は自転車で行きました。狭い京都ではよろず機動力を発揮するためには便利だから、という言い訳で。そのとき、ホイールを指して「切削加工までしてるやん!(そりゃ、高いわ)」と言った人も居ました。ちなみに、そのホイールはグラムあたり100円、銀より高い。でもグラムあたりはブランド物のハンドバッグよりは安いから、いいですよね。
 この夏には、吉野グランフォンド、というイベントに参加しました。これはグランフォンドというイベントはレースではなく、設定時間内に完走出来るかどうか、というイベントで、結構あちこちで行われています。コースは、160kmコース。残念なことに、私は途中20分遅れで足切りされてしまい、少し短いコースに回されてしまいました。猛暑のためか、完走率は半分程度と例年になく厳しい状態だったので、まあしゃあないな、と諦めようとしていますが、やはり悔しい。この長く苦しい1日の中、完走の事以外考えずに過ごしましたが、こんなに一つのことに集中したのは久しぶりです(こら、仕事は!)。また、わくわくどきどきして前夜寝たのも忘れられません。大人になっても、まだまだ冒険気分って味わえるもんですね。
 自転車は間口が広く、奥も深いスポーツです。リタイアされてから始め、私より遙かに速い方も幾人か知っています。基本的には時間さえかければ、運動神経に関係なく速くなるのですが、勤め人ではなかなかそうはいきません。さらに、子供らが居る間はそっちの面倒みないと、と思っているからです。
 なので、遅い。いえ、言い訳です。





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