製造業の復活で日本を強く

川�普@淳（昭３１年卒）

　ＩＭＤ（スイス国際研修所）依頼の国際競争力エグゼクティブサーベイに回答を書きながら、かつてトップレベルにあった日本が平成１４年には４９ヶ国中３０位に落ち、情けなくなった。昭５６年私がＩＭＤに滞在時には日本を手本とした研修テーマが多かった。
　私は現在日立の子会社の監査役として、日立グループの再生に頑　張っているが、電機産業を始めとして日本の製造業が強くならないと日本は沈没の危険性がある。洛友会の一員として、強く責任を感じており、次のような提言を行いたい。
　(1)製造業の復活こそ日本の経済を再生する。銀行等金融機関への税金の投入も必要であろうが、新技術開発への産学協同研究にもっと高い優先度で国家資金を投入して欲しい。これは企業の研究開発への優遇税制も含む。企業を代表する新製品を開発し、ブランドイメージを向上させる必要がある。企業は大きいだけでは尊敬されない。社員が生き生きとして、新製品を開発する企業であれば、市場も顧客もこれに応えてくれる。市場こそ企業のあり方を決定してくれる大切なフィードバックポイントである。エンドユーザが欲しがる"もの作り"こそソリューションである。
　(2)新システムの開発が日本の情報通信産業を活性化する。私のいる情報サービス業界は残念ながら舶来品のソフトが氾濫しており、情報処理学会でも国産ソフトがなぜ生まれないのかというシンポジウムをやる位である。９９％が外国産、しかもブラックボックスであり品質が必ずしも高くない。その上色々な海外産ソフトを組合せるとシステム事故が頻発する。これを解決するには自分の頭で作ったソフトの比率を今の０．数％から１％、さらに１０％以上へ上げる必要がある。ウィンドウズ、ＪＡＶＡなどに負けない国産ソフトが望まれる。そのため、顧客が必要とする新システムを実現する国産・自主ソフトを顧客と協同開発することが重要である。
　阿部清先生と仲が良かった星合正治先生が昭３４年日立中央研究所長になられて、星合三原則を作らた。
　��お手本のある研究はとりあげまい。
　��プロジェクト中心に協力しよう。
　��タイミングよく成果をあげよう。
　いつの時代でも大切な勘所であり有言実行したい。とくにお手本のない新システムを産学協同プロジェクトで開発することが日本の情報通信産業を活性化する。
　(3)米国ＩＢＭ社は製造業のお手本である。ガースナー元会長がナビスコ社から招かれた時ビスケット屋に何ができるかと見る人が多かった。しかし、今のパソコンは誰でも作れるビスケットのようなもので、ＩＢＭ・ＰＣのブランドを一流にした経営の勘所は、常に市場・顧客から見る姿勢をもったガースナー元会長の経営センスの良さである。さらにＩＢＭが顧客へクイックレスポンスするために意志決定の階層を３階建て（事業部長―部長―担当）にし、ｗｅｂを顧客窓口にしている。これは日本企業の８階建以上の遅い意志決定と無責任体制を大きく改良したポイントである。研究開発でも銅配線ＣＭＯＳなど世界ＮＯ１である。
　(4)インターネットとデジタルの良さを知る。阪神大震災で電話は通じなかったのにパソコン通信は通じた。これは４０年前に米国国防省（ＤＯＤ）が核攻撃で通信回線が潰滅しても、部分復旧した回線をたどって通信できる新システムを作れ、と要求して開発されたＡＲＰＡＮＥＴがインターネットの母体である。その基本はパケット交換方式で今ではＩＰ電話の通話料バカ安時代を実現している。
　ＴＶの信号圧縮・再生ＭＰＥＧもデジタル時代の新技術である。米国はインターネット、デジタル記録・メディア・放送など具体のニーズを発端とした新システム開発から、重要な新要素技術を生み出した。これがシステム先導型開発で米国の強さはここにある。
　(5)電気屋の等価回路理論こそシステムモデリング、制御理論の基礎である。私はビジネスモデルの成功例やノーベル経済学賞受賞理論を制御理論とくにどこからフィードバックし、どこを駆動するのが正しいかを見ている。システム制御技術は製造業から国の経済まで何にでも適用できる。システム制御理論に強い企業や国家は伸びている。
　(6)学生時代先生方からみっちりと学問の基礎を勉んだことが今の自分の技術力となっている。時代は変っても電気・電子の基礎を正しく教えていただくことが日本の製造業を強くする。また、どこにいても特許と論文を発表することとトップレベルの学者、技術者との交流のため学会に入ることが必要である。企業では��正しく人を集め、能く之を養う�≠ﾆ説いた日立の馬場大変人の教えを有言実行したい。
　まとめとして、公正な競争市場とシステム先導型研究開発がキーである。製造業の復活を願う。

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