修士修了から今日まで
洛友会会報 202号


修士修了から今日まで

沖村邦雄(昭62年修卒)

 私は昭和62年に電気第U専攻修士を修了いたしました。京大電気は大学院からの入学で2年間の短い期間でしたが、私にとっては現在に至る日々を支えてくれている貴重な2年間となりました。今回、由緒ある洛友会会報への寄稿の機会をいただきましたので、修了から今日までについてご報告する次第です。
 修士修了後、私はすぐに福井工業高等専門学校(福井高専)に助手として採用されました。福井高専は私の母校でもあり、幸運にも修了時に教員枠があるということで採用していただいたのでした。昭和62年当時は、景気上昇の真只中にあり、専攻の就職担当教授の面接時に私が教員になるつもりですとお話しすると、担当教授は一瞬おやっという表情をされました。おそらくはこのような好景気で修了学生が引く手あまたの中、なぜ企業へ就職しないのかと思われたのかもしれません。しかし、担当教授はすぐに「福井高専は本教室から大谷泰之先生が校長として行かれた学校ですね」と言われました。洛友会元会長でもあられた故大谷泰之先生は、私が福井高専の学生であったときにまさに学校長を務めておられたのです。そして何よりも、私がその後大学を卒業して大学院進学の際、京大の修士へ進学したいというおそらくはかなり無茶なことを考えたときに、大谷先生から励ましの手紙を頂戴しました。「とにかく合格することを考えて頑張りなさい」という大谷先生のお言葉を支えに、不慣れな受験勉強に取り組み入学資格をいただくことができたのでした。
 修士終了後に勤務した福井高専では、研究のための機材は何もないところからのスタートとなりました。唯一、修士研究室の指導教授であった飯吉厚夫教授のご配慮で供用替えして頂いた真空ポンプを使って放電の基礎実験などを行っていました。最初から予想していたことですが、5年間ほどは研究といえるようなこととは縁遠い日々を過ごしました。それでも、私が前向きに将来的にはプラズマプロセスによってよい結晶ができるようにしたいと考えて日々を過ごせたのは、京大修士のときに研究室の先生や先輩方から学んだ研究に対する姿勢、しっかりと基礎を理解して積み上げて、はつらつと取り組むということでした。その後、平成3年度に京都工芸繊維大学の橘邦英先生(現在は京大電子物性工学専攻教授)の研究室に10ヶ月間留学する機会を頂戴し、その頃より学会発表などもできるようになりました。さらに文部省の科学研究費を数回頂戴したり、スパッタ成膜装置を導入できたりしたこともあり、何編かの研究論文を発表することができました。電気学会や応用物理学会といった大きな学会のジャーナルに論文が掲載されたときの喜びは大きなものでした。そしてまったく幸運にも九州大学で学位を取得することができたのでした。修士修了後10年足らずで学位取得などというおよそ望外の成果に導いていただけたのも私にとっては修士の2年間があったからこそと思うのみです。一つ不思議というかご縁のようなことを感じることがあります。それは、福井高専に長年勤められ、研究上大変お世話になった柴田明先生(現福井工大教授)、また現在福井高専におられる井上昭浩先生など電気教室の同門のご出身であるとのことで、現在の私の専門とも関連して大変ありがたく感じております。
 福井高専での仕事は、研究はどちらかといえば表に出ることはなく、15歳から20歳という多感な時期の只中にある学生に対する授業、生活指導、クラブ顧問といったことが主体となりました。私はかつて自分自身も籍を置いていたサッカー部の顧問をしておりました。どちらかといえば弱小なクラブでしたが、ちょうどサッカー人気が高まった時期と重なったせいか部員も増え、平成2年には初めて予選会を勝ち抜いて全国大会へ進出することができました。高校、大学ほどのレベルにはありませんが、それでも全国大会は選手以上に私が興奮を覚えるものであり、1回戦での敗退も私の人生の中では貴重な経験となりました。福井高専の若く意欲に満ちた学生と過ごした日々は楽しく充実した時間でした。ただ、私の中でもう少し時間を割いて研究活動に取り組んでみたいという気持ちがあり、平成10年の秋に現在の東海大学に来ることになったのでした。
 東海大学は私学であり、一般に私学ではそうであるように、担当授業数は多く週の半分近くの時間は講義となります。研究に供せられる実験室があるわけではありませんので、研究に割けるスペースはシビアな問題です。それでも私は講義も含めて研究活動と考えていますし、残りの時間を実験研究に充てることができる環境は貴重なものです。現在は、誘導結合プラズマという高密度プラズマを導入した支援型のスパッタ成膜を行っており、従来型の成膜とは格段に違う様相が見られています。放電空間にコイルを挿入する内部コイル型から始めましたが、外部型も並行して実施しており、結晶成長が難しい酸化物(酸化チタンなど)において良好な成長が見られるようになってきました。いずれの技術もかなり以前から知られているものですが、結晶成長などへの応用についての未知の可能性を少しでも明らかにしていきたいと取り組んでいます。
 このように振り返って見ますと、私は京大修士を志して以来今日までずっと洛友会の方々のご指導、ご援助を得てここまでやってこれたことを、我がことながら改めて感じます。出身研究室(現エネルギー理工学研究所)の先生方そして本文中にお名前を挙げさせて頂きました故大谷泰之先生をはじめとする先生方に改めて感謝申し上げます。

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