桂キャンパスに移転して
洛友会会報 203号


桂キャンパスに移転して

電気系桂移転WG委員長
奥村浩士(昭41年卒)

 国道9号線から「桂御陵坂」という標識に従って北に曲がりS字型の道路を登っていくと、右手の竹やぶからゆっくりと最初に視界に入ってくるのが、電気系の建物(A1棟)である。続いて、化学系の3つの建物(A2、A3、A4棟)が見えてくる。
 振り返れば、平成11年9月の評議会において、工学研究科と情報学研究科の桂移転が決定され、電気系と化学系が最初にAクラスターに移転することになった。ここでいう電気系は電気工学専攻、電子物性工学専攻、イオン工学実験施設そして基準特例施設ならびに図書室の一部である。「技術」「地域」そして「自然」の融合による「新しい学問分野の創生」を使命とする桂キャンパスへの京都大学歴史始まって以来の移転である。当初は「なぜ工学研究科・情報学研究科が移転しないといけないのか」との声もよく聞かれた。移転に消極的な意見もあった。しかし、移転してみれば、キャンパスの広さ、建物の新しさそして大きさ、吉田キャンパスとは異なる美しい静かな環境のためか、そうした意見も今のところ耳にしていない。「これだったら、欧米の大学に引け目を感じない」との声も聞こえてくる。一研究室280uという面積、吉田より30u広いだけであるが、大部屋形式、透明な扉と高い天井が部屋を実際より広く感じさせる。
 移転して約1ヶ月。 電気系教職員に移転準備に伴った労苦と移転後の感想を聞いてみた。「統一された綺麗なキャンパスになり、全体にしっかりと建物がつくられている」、「手狭な吉田キャンパスに比べて、環境に配慮したゆとりの空間が随所に見られる桂キャンパスのこれからの発展に貢献したいと考えている」、「仕事を終え帰宅する時に眺める夜景の美しさは明日への活力を与えてくれる」、「吉田と違って、丘陵地のS字状のゆっくりとしたカーブは車を運転する人の心を落ち着かせてくれる」など、移転を歓迎する感想が多く寄せられている。確かに、京都市内の夜景の美しさは格別である。誰しも一日の仕事の疲れが癒されることだろう。
 それでは、居室や実験室についてはどうか。「居室が新しく、広くなって快適な研究環境になったことがいい」、「分散していた実験室が一つに集約されたことがうれしい」、「学生の部屋などの什器が一新されたのはありがたい」など、新研究棟を評価する意見が多い。また、実験系の研究室からは、「移転を機に安全対策と装置の配置を見直し、安全装置の設置ができた」、「液体窒素汲み出し所が近くなったなどメリットも多い」とのうれしい感想も多々ある。図書室からは新しい展開、「研究室所蔵の資料と学位論文を集中化した。これらはアーカイブとしての機能も果たすことになる」がある。総じて「桂キャンパスは想像していたよりも生活しやすく、研究に向いていると感じている。今回の移転が京大のさらなる発展へ繋がっていくものと確信する」というのが教官たちの所感である。
 電気系特有の問題に多くの大型装置と電子顕微鏡のような特殊装置の移転があった。これらの装置の移転は物品を単に吉田から桂に運び込むことではない。移転先のスペースに配慮し、装置の慎重な分解、組み立てと搬入・据付そして調整という手順を踏まなければならない。当然のことながら、これらの移転には時間と多大の経費がかかる。実際に移転してみると不具合を訴える声が上がっている。とりわけ大型装置をもつ基準特例施設の高電圧実験ホールは教官が部屋の設計に関与する機会が少なく、最初からちぐはぐなものが作られた。「広い面積は実験のための絶縁間隔として必要な広さであり、無駄に広いのではない」ことが、業者に理解されていなかったため、壁や床に必要以上の大きさの配管・盤・支持物・器具を多数取付けられて、実質の利用可能空間が狭くなってしまっている」、「大型機器搬入出用の大扉のサイズと外側通路の大きさに整合性がないため、機材の搬入が大変に困難な作業となる」などの感想が寄せられている。周辺を含めたホール全体としての、設計の不統一・一貫性の無さが、随所に現れる結果となっている。イオン工学実験施設では大型装置が多く、「現有の実験装置を何時、どのように移設させ、どの場所に置くかを考えるだけでも、大型であるがゆえに特別の配慮が必要となった」、「不運にも更新費用が認められず、移設費用も結果的に不充分であったために、移設する装置と吉田に置き去りにする装置の選別にかなりの時間を費やした」と苦渋の決断もなされている。
 しかし、一部で心配のあった電磁波の問題については、教官によって細心の注意が払われた設計となり、電磁シールドの性能試験も実施され、極めて上質のシールド性能をもつ施設が建てられている。電磁波の外部に対する悪影響はまったくないといえる。
 実験系の研究室全体で大変困っているのは、倉庫となるスペースがないこと、館内配管工事に問題が多発していることである。例えば、「適切なバルブを設置するのに、各研究室でかなりの経費負担があった」さらに、「気体用の配管から水と油が出てくる」という深刻な問題も生じている。
 さて、桂キャンパスでの日常生活に不足はないのか。感想を伺ってみた。「バスの本数が少なく、アクセスに難がある」、「ゲートから車で外にでるとき、往来する車がよく見えないので事故の危険がある」、「実験廃液を運搬車を借用し自らが運転して吉田に搬入しなければならない」、「授業科目によってはシャトルバスに学部学生の積み残しが発生することがある」など交通と輸送の不便と不安は否めない。「事務室ではゆっくり昼食をとれるようにしてほしい。昼食時間に業者、院生の来室がはげしいから。」「昼食をする場所をもっと作ってほしい。」「研究の遂行上、夕食夜食がとれるところがほしい」などは桂移転の先発隊の誰もが抱く切実な要望である。「残業後、帰宅するとき駐車場までが暗く、とても恐怖感を感じる、早急に外灯など対策を考えてほしい」という女性の方たちからの治安に不安を感じる声も根強い。こうした交通、食事、治安の問題は早急に解決しなければならない最重要課題である。さらに「卓球やテニスのできる体育施設や福祉施設をつくって欲しい」という要望も少なからずあり、福利厚生施設の充実は現在少し無機的な感じのするキャンパスを暖か味のある有機的な空間にするだろう。
 さて、移転の実際面の実施にあたって、各研究室はどんな感想をもっているのであろうか。実験系の研究室からは「5、6年かけてやってきたことを1、2ヶ月でやり遂げねばならず、大変な作業量だった。毎日学生と一緒にスパナやレンチを片手に作業に明け暮れた」と学生にかなりの労働を強いたことが分る。また、日程的にも「施工管理のプロット図の承認にかかる時間的余裕がなかった」という感想もある。机、椅子などの一般物品の移転は平成15年8月25日から9月18日に実施された。そのときの感想には「運搬作業はよく組織されており、非常にスムーズに運搬準備と運搬が行われた」、「桂移転準備室が比較的臨機応変に対応してくれた」などがあり、事故もなく順調に各研究室とも移転が行われたことは幸いであった。忘れてはならないのは移転準備に学生・院生諸君が労を惜しむことなく協力してくれたことである。
 ここに約4年間に目を通した膨大な書類が残っている。この大部分は主に助手・助講層の一心協力によって作られたものである。提出期限を守るために徹夜で作られたものも数多くある。職務とはいえ、研究と教育を抱えながらの彼らの献身的な協力があったからこそ、この移転は実現できたと言っても過言ではない。ご協力に心から感謝する。また、電気系の3倍規模の移転を行った化学系の先生方には気軽に便宜をはかっていただいた。これに対しても謝意を表する。さらに、移転の最初から最後までご面倒いただいた工学部事務の方がた、移転費充足のため奔走いただいた大学当局にも感謝しなければならない。このように、われわれの桂移転は教職員と院生・学生が一丸となって初めて可能となった。これからは、桂キャンパスの理念に則り、構成員一人ひとりが使命感とモラルをもって行動することである。21世紀の工学と情報学のメッカにするために。

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