電気系教室懇話会報告
洛友会会報 203号


電気系教室懇話会報告

 平成15年度の電気系教室懇話会は10月17日(金)に、約140名の参加のもとに開催されました。
 第一部の講演会は、3人の講演者をお招きし、午後3時より電気総合館中講義室において行われました。講演会の進行は、引原隆士教授(電気工学専攻長)が務められました。
 講演会の最初に、中村行宏電気電子工学科長から御挨拶がございました。電気系教室の近況報告として、(1)電気工学と電子工学の二専攻の桂キャンパスへの移転、(2)21世紀COEプログラム「電気電子基盤技術の研究教育拠点形成」の採択、(3)平成16年4月からの独立行政法人化への移行について話されました。大学を取り巻く環境の変化が大きい今こそ、本気でこれから大学との中身の濃い産学連携を考えていただきたいと産業界へ要望されるとともに、洛友会を通して実の成果の期待できる力強いコミュニティー作りを呼びかけられました。
 最初のご講演は、小倉久直先生(昭31年卒、名誉教授)による「勉学と教育、研究と趣味の間」でした。前半は、勉学と教育について話されました。昨今の大学生の学力低下の一因として、知識や授業の内容が欲しいわけではなく単位をとりたいといった「単位の原理」という学生の行動原理を指摘されました。このような学生の行動規範と教育システムの現状に警鐘を鳴らされるとともに、自分の行動を見渡して自分の置かれている現在位置と進む方向を見出して欲しいと学生に対し要望されました。後半は、研究と趣味について話されました。まず、「研究とは探検に似ている」とご自分の研究観を述べられました。研究のやり方としては、自分でやってみることが大切であり、その方が他人の論文を読むより理解が深まり完全にマスターできるので、そうしているうちに、いつかは人より先に出て、新しい世界に入ることができるのであると述べられました。さらに、研究にも趣味にも通じるものとして感性を挙げられ、特に研究には美学が必要であり、問題を解決していく方法にはある種の美しさやロマンがなければならないと述べられました。趣味のお話を通じて、芸術のセンスは科学の研究と完全に無縁ではないことに触れられるとともに、そういったセンスは壊れやすく消えやすいので大切にしていかなければならないと述べられました。最後に、先生ご自身が京都大学のキャンパス内の風景を写生された絵をご披露されてお話を締めくくられました。
 2番目のご講演は、浜口友一氏(昭42年卒、鰍mTTデータ社長)より「日本のIT産業の課題と今後の方向性」と題してお話いただきました。まず、日本のIT化の現状について、個人、企業、行政に分けて説明がなされ、アメリカをはじめとする世界レベルと比較してまだまだ遅れている実情について述べられました。特に、政府からの情報公開は日本も進んできているが、国民が政府に対してアクセスしたりinteractiveに処理をしていくという面が遅れているという指摘がなされ、今後、利用者側から役に立つシステムという視点がより一層必要であると述べられました。次に、ITによる新価値創造へ向けた取り組みとして、ITによってそれぞれのプレイヤー同士を結びつけて新たなしくみを構築していくという手法であるe-Collaborationを紹介されました。さらに、IT産業の抱える問題についてお話があった後、これからの大学に期待することについて述べられました。その中で、是非大学でも基礎研究から一貫して製品開発までしてもらえれば、産学連携が一層進むのではないだろうかというお考えを、大学におけるベンチャー・ビジネス・ラボラトリーやTLOなどの役割にも触れられながら提案されました。電気工学や情報工学の世界だけではなく経済学、医学など他の分野との連携の中から、一つのシステムとしての考え方を学べるような場を大学には提供して欲しいといったことや、コミュニケーション能力と論理的思考回路を備えた人材を大学から輩出して欲しいとの要望が出されました。最後には、WindowsやLinuxなどのOSを例に出しながら、世界的に通じる製品の開発のためには大学、行政、企業の協力が不可欠であることを述べられて講演を結ばれました。
 最後のご講演は、櫛木好明氏(昭43年卒、松下電器産業鰹務)による「ユビキタスネットワーク社会の実現に向けて」でした。
 まず最初に、家電の歴史をひもときながら、家電に対するニーズと関連付けながら家電開発についてのエピソードを紹介されました。DVDレコーダーの最近の開発状況から、カーナビゲーションシステムや安全運転のためのシステムといった自動車関連製品の状況まで多岐にわたる事例についてお話がありました。さらに、ネット家電構想について、戦略としてどう進めていくのかといった話や、この構想が抱える諸問題の指摘がなされました。ホームネットワークの普及のために、メディアネットワークが一般の人に容易に使える環境整備の必要性にも触れられました。また、これらの技術開発を1社のみで行うことが困難になりつつある状況を踏まえ、アライアンスを組んだ技術開発のあり方にも言及されました。大学との関係に関しては、製造技術における産学連携、ならびに、グローバルな技術の共有化の必要性を訴えられました。最後に、これからの技術マネージメントのあり方について述べられて、お話を締めくくられました。お話の後の質疑応答では、セキュリティー対策やプライバシーの確保を進めるための原動力と企業論理との関係に関する議論がなされました。
 お三方のご講演は、いずれも大学あるいは若い学生・研究者に対するメッセージが込められており、興味深く有意義なお話でした。
 午後6時より、会場を吉田(旧教養部)生協食堂に移し、第二部の懇親会が行われました。まず最初に、橘邦英教授(電子工学専攻長)から、独立行政法人化を控えた今後の大学のあり方に触れながら御挨拶をされました。引き続き、参加された名誉教授の中で最年長の小川名誉教授のご発声で乾杯を行い、講師の方々、卒業生の方々、大学教職員、学生等の参加のもと、和やかに懇談がもたれました。特に、学生にとっては、社会人の諸先輩方をはじめ日頃接することのできない方々と気軽にお話できる貴重な機会であったようです。料理を囲みながら会話もはずみ、和気あいあいといった雰囲気でした。午後7時半にお開きとなるまでの時間が、あっという間に過ぎてしまったようです。余った料理は折り詰めに詰めてもらって、学生さんたちが桂キャンパスに持ち帰りました。これは、新しく出来たばかりの桂キャンパスでは食堂などがまだ整備されていない状況に対して、引原隆士教授(電気工学専攻長)が配慮していただいたことによるものです。
 最後になりましたが、ご講演を快くお引き受け頂いた講師の方々をはじめ、遠くからご参加いただきました卒業生の皆様、ご参加くださった教職員、学生の皆様に厚く御礼申し上げます。また、この会をサポートしていただきました洛友会ならびに関係会社の皆様方に深く御礼申し上げます。今後ともよろしくお願いいたします。

 中村 敏浩 記

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