今世紀のエネルギー
 について(U)
洛友会会報 204号


今世紀のエネルギーについて(U)

前川則夫(昭36年卒)

1.前回は化石燃料と地球温暖化の関係、温暖化防止に果たす森林の限界などについて解説した。今回は世界のエネルギー需要、生産、主要国の状況について解説する。世界のGDPに占める各国のシェアの大きさは、現在、米国、日本、ドイツの順であるが、2030年にはアジアの躍進で、米国、中国、インド三大経済パワーの順になるとの予測もある。20世紀の先進諸国の人口は約10億人にすぎなかったが、約40億人に拡大する勢いである。先進国はエネルギーの大量消費によって支えられている。エネルギー獲得競争は避けられない。国際間の競争激化の中で日本を含め世界の先進国が必要とするエネルギーを如何に安定的に確保していくかというのが、地球環境を守る戦いに次ぐ、もう一つの大問題であり、本稿では安定確保の問題について出来るだけ具体的に説明して行きたい。

2.(世界のエネルギーの見通し)
@IEAが最近公表した長期予測によると世界のエネルギー需要は、現在、石油換算約90億トン(内訳:石油40%、天然ガス24.7%、石炭25%、原子力7.6%、水力2.6%)であるが、2030年には現在の1.7倍の153億トンに達し、化石燃料がその90%を占めると予測されている。二酸化炭素の放出量はほっておけば今より70%も増え年間381億トン(現在224億トン)に達する。京都宣言でいう90年比では90%の増加となる。
Aまた、石油生産量のピークは早くて2010年、遅くとも30年頃と見られている。以降生産が減少して価格が高騰する。石炭への依存は地球環境の観点からは推奨されない。人類は遅かれ早かれ膨大なエネルギー消費を石油から天然ガスにシフトしつつ原子力と再生可能エネルギーに依存するしかない。
B世界の主要国の新しいエネルギー政策の狙いは自給率の向上と安定確保に尽きる。現在の自給率は米国73%、EU53%に対して日本は19%。原油の中東依存率は米国25%、EU51%に対して日本は87%に達する。
C一次エネルギーの一人当たりの年間消費量(1997年)は米8.1トン、英国3.8トン、日本3.6トン、中国0.7トン、インド0.3トンであるが中国、インドなどの諸国の消費量は急拡大(〜10倍程度)していくであろう。

3.(急増するアジアの消費)
@そこでアジアを概観すると、IEAの見通しでは、アジア地域(日本を除く)で97年に石油換算18億トンだった消費量は2010年には30億トン、20年には41億トンと爆発的に増加する。中国とインドを中心に、経済成長に伴って産業・運輸・民生部門が増加するためである。
A爆発する需要に対して供給は十分出来るだろうか。既に、80年代に石油輸出国であった中国が90年代に輸入国に転じ、急速に中東依存を高めている。将来、中東に大きく依存している日本との取り合いが予想される。

4.(日本のエネルギー需要)
@99年の日本の一次エネルギー消費量は石油換算5.1億トン。その内訳は石油52%、天然ガス12%、石炭17%、原子力13%、水力4%、その他2%であった。国産エネルギーはたったの6%、準国産エネルギーの原子力を加えてやっと19%になるにすぎない。
A日本の一次エネルギーの消費量は1970年に3億2千200万トンだったが、00年には5億3千500万トンに増加している。今後は人口の減少(30年には約1000万人)に伴ってエネルギー需要の低下も予想されている。
B日本の部門別のエネルギー消費構造は産業部門が利用効率の改善などから70%から50%に低下、民生及び運輸部門は生活水準の向上、モータリゼーションの発達から過去30年でそれぞれ10ポイントづつ上昇し各4分の1のシェアになっている。
C日本のエネルギー政策は第一次石油危機以降、天然ガスと原子力を積極的に利用して、需要の拡大に対応してきた。その結果、石油の割合は第一次石油危機前の80%から、現在では50%と減少している。
D日本にとって大きな課題はエネルギーの安全保障。今後、エネルギー自給率を原子力と再生エネルギーの開発によって向上させ、石油についても輸入の割合が大きい中東依存率(87%)を下げていくことが喫緊の課題となっている。
E90年に2億8700万トンだった二酸化炭素(炭素換算)の排出量は00年には3億1700万トンに増大した。政府は2010年の排出量を京都宣言で約束した90年水準に抑えることを目標にしているが達成することは困難な状況。日本では火力発電所の効率改善が進み、また、産業・民生部門とも省エネの努力が続けられ、GNP当たりのエネルギー消費量で見て先進国では極めて低い水準にある。

5.(世界の確認埋蔵量と上位国のシェア)
@石油は1兆500億バレル(サウジ25%、ロシア14%、イラク11%、UAE9%)
A天然ガスは5477兆ft(3)(ロシア32%、イラン15%、カタール7%)、
B石炭は米国25%、ロシア23%、中国12%の順である。

6.(世界の石油生産量)
@01年時点で、世界の石油生産量は約272億バレル(40億トン)である。IAEの見通しでは20年には380億バレル(56億トン)、この間の年平均の伸びは1.6%と見積もられている。生産地別では引き続き中東が36%、OPEC全体で48%を占める。
A究極埋蔵量は5兆バレル(体積で7?程度)が一つの目安。石油工業連盟が可採埋蔵量2兆700億バレル(3050億トン)という数字を出している。また、確認埋蔵量1兆500億バレルを元に計算すると採掘可能な年数は40年になる。

7.(米国における課題)
@世界のエネルギー生産量は石油換算約90億トン。米国だけで23億トン、その4分の1を、また、発電電力量の3分の1を消費している。
A米国には石炭が豊富であり、天然ガス生産も過去10年で35%増加させた結果、現在のエネルギーの自給率は74%である。しかしながら、米国の石油生産量は日量773万バレル(世界シェア11%)に対して輸入量は日量931万バレルに上り、最大産油国サウジアラビアの日量855万バレルを超える。石油については、現在、既に42%に落ち込んでいる自給率が2020年には更に30%迄落ち込むものと予想されている。
B米国は天然ガスの世界最大の消費国だが、これまでは需要を国内のガス田からの供給で賄い、02年のLNGの輸入量は450万トンにすぎなかったが、2025年には9千万トンに達するとの見方もされている。将来は天然ガス(LNG)も輸入に頼らざるをえず、エネルギーの海外依存度は更に高まる。
C米国の軍事力と経済力は世界最大の石油消費に支えられている。米国は世界第二位の産油国であったが、産油量は1970年をピークに減少を始め、可採埋蔵量も10年とサウジアラビアの80年強に比べて極端に少ない。米国の弱点はここにあり、エネルギーの安定確保が米国の安全保障上の最大課題になっている。
D現在の電力の燃料構成は石炭52%、原子力20%、天然ガス16%であり温暖化の観点からは石炭の比率が高すぎるという問題を抱えている。このため、水素エネルギーの利用促進や70年代後半から中止していた新規原子力発電所の建設計画の再開が検討されている。現在、原子力は104基、文字どおり世界のトップクラスの原子力発電国になっている。

8.(EUのエネルギー見通し)
@英国は北海油田を持つ産油国で、エネルギー自給率は120%。豊富な石炭層の上に住むドイツは自給率40%を維持している。化石燃料を持たないフランスは今や総発電電力量の77%が原子力、これがエネルギー自給率を51%に引き上げている。
AEU域内で消費される一次エネルギーは現在、化石燃料で80%、原子力などで20%となっている。また、発電電力量の燃料別内訳は化石燃料50%、原子力等50%で賄っている。EUの一次エネルギーの輸入比率は50%で石油の75%を輸入、天然ガスの40%はロシアからの輸入。
BIEAの見通しによれば20年時点で石油の輸入依存度が90%、天然ガスは70%にそれぞれ高まり、一次エネルギー全体の輸入比率は70%になる。この予測に危機感を持ったEUは、エネルギー安全保障の為の共通政策として、再生エネルギーの開発と原子力の重要性を強調している。
C英国は北海油田の枯渇が進み、2010年にも原油・天然ガスの純輸入国に転落する見込み。20年には同国原発の老朽化のために、原子力の発電比率は現在の4分の1、即ち5%に下がる見通し。英国の各分野で指導的な立場にある学者達で構成されている英国王立協会は02・2月声明を発表して、CO2の放出量が増加しているという事実を踏まえ、既存の原子力発電設備を化石発電設備で置き換えるような政策を導入すべきではないとの見解を発表している。

9(中国のエネルギー見通し)
@中国は米国に次ぐ世界第二のエネルギー消費国。00年の実績では、石炭は世界最大の生産国で世界の28%を生産(石油換算で6.6億トン)する。原油の生産量は47万トン/日であり、世界の4%を占めるが、96年には輸入国になり、現在では3割を超える輸入依存度になっている。00年のエネルギー需要のトータル実績は9.5億トン石油換算となっている。
A今後の需要見通しは2010年には13億トン、30年には21.3億トン(石油換算)に増加し現在の2.2倍、世界の14%になる。EUの18億トン、インドの10億トンを上回る。内訳は石炭で12.8億トン、石油で5.8億トン、天然ガスで1.5億トン、原子力で0.6億トンとなっている。
B中国は世界第二位の炭酸ガス排出国である。設備の熱効率が悪く、石炭への依存度が高い。98年のWHOの調査では世界十大深刻公害都市に中国の7市が入っている。今後も石炭に極端に依存した電力需要の拡大やモータリゼーションによる石油消費の急増の影響が予想される。自動車を例にとると自動車の保有台数は現在日本が約7500万台。02年の中国が2000万台。これが中国では10年代に1億台を突破、20年には1.5億台、30年には2億台を超えるといわれている。
CCO2の排出量は00年の31億トンから30年には米国・カナダ合計の83億トンに次ぐ67億トンに達する見通しである。自給率の低下が進む中、中国はロシア等と積極的なエネルギー外交を進めている。中国は石油消費量の約3分の1を輸入に頼り、輸入量の半分以上を中東に依存している現状を踏まえ、温首相は「石油と天然ガスは国民経済と国家の安全にかかわる重要な戦略資源」といっている。

10.(ロシアとエネルギー)
@ロシアはエネルギー大国である。世界の天然資源の確認埋蔵量に占めるロシアのシェアは天然ガスが31%(世界1位)、原油14%(世界2位)、石炭16%。ロシアのエネルギー自給率は160%にのぼり、輸出総額の50%強が石油、石炭、天然ガスによる。EUのロシアへの依存度は石油で25%、天然ガスで40%に上る。IEAによると03年・7〜9月の実績によれば日量生産量は867万バレルでサウジアラビアの日量を上回っている。
Aプーチン政権はEUへのエネルギー供給を長期的に保証し、エネルギー分野での米国との戦略的提携に踏み出し、中央アジアやカスピ海における将来の原油生産で協調路線をとっている。米ロ連合とOPECが石油価格に大きな影響力を持つであろう。日本との関連に触れれば、東シベリア(バイカル湖南端)の石油やサハリン東方沖で進めてきた石油・天然ガス開発事業(サハリン1、2)などロシアとの関係が深まりつつある。(続く)

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