「自動車技術の進化と電線」
洛友会会報 204号


「自動車技術の進化と電線」

(昭55年院卒 酒井和憲)

〈はじめに〉
 世界各国の電線会社が私的に設立しているICF(International Cablemakers Federation)の年次会議が昨年10月カナダのバンクーバーで行われました。私は自動車用ワイヤーハーネス(組み電線)の設計を担当していた関係で自動車の最新技術について講演をしましたのでご紹介します。自動車の動向をお話すると同時に電線業界への要望を伝えたいとの思いで参加しました。一方、電線業界の方々は、電力や通信網が普及した今、どちらかと言うと縮小側事業であり、今後の伸びが予想される自動車用ネットワークやワイヤーハーネスの動向に関心があるとの事でした。

〈自動車技術の変化と電線への期待〉
 最近の自動車は、環境対策や安全性向上を中心に、動力源やセンシング、車外との通信に大きな革新が起こっています。その代表例は、燃料電池、ハイブリッド車等の「新動力」、周辺監視カメラ・レーダー等の「認知技術」、料金課金システムや情報センターとの電話通信によるサービス等の「ネットワーク技術」です。車両の内部の電線にも大きな変化があり、大電力の配電、高速データの授受、各種アンテナによる新しい種類の電線が増えると同時に、電子部品が満載されることで部品を接続するワイヤーハーネスが肥大化しました。例えばカローラでもワイヤーハーネスの質量は15kg〜20kgあり、セルシオ等の高級車では40kgを超える質量に達しています。自動車業界全体の電線消費量を銅の重さで表すと年間50万tと推定され、全産業における銅の消費量が1000万tと見積もられていることから約5%が自動車用です。車両内ネットワークの活用や電線の細径化で総量増加が抑えられているものの電子装備の普及拡大により今後も伸びが見込まれています。

〈究極のエコカーを目指して〉
 自動車に対する世界の環境規制は排気ガスから始まり、リサイクルや"CO2排出規制"と次々と拡大しています。究極のエコカーへの道筋として内燃機関エンジンとモーターを組み合わせた"ハイブリッド車"や"燃料電池車"が登場しています。代表的ハイブリッド車"プリウス"の動作を簡単に言うと「信号等の車両停止時はエンジン・モーターとも停止。走り始めはモーター駆動。スピードが上がってくるとエンジン駆動。加速時はモーターの力を加え、減速時は発電を行ってバッテリーに運動エネルギーを回収。また、バッテリーの充電量が不足してくるとエンジンにより充電」という様にそれぞれの良さを組み合わせています。昨年フルモデルチェンジを行った2代目プリウスでは、モーターの作動電圧を288Vから500Vに引き上げ、更なる効率化を行うことで35.5km/L(国土交通省審査値)と、このクラスの車で世界最高の燃費を達成すると同時に、50kwのモーターをターボチャージャーの様に使って気持ちの良い加速が得られます。急加速を暫く繰り返すと電池の充電量を使い切りエンジンのパワーのみとなってしまいますが、「燃費は良いけどあまり走らない車」ではなく、「普段は低燃費の車が良いが、いざと言う時はしっかり加速したい」というユーザー感覚にも合っていると思います。トヨタでは"HYBRID SYNERGY DRIVE"と呼び、異種技術の融合・相乗効果で新たな世界が開けることを訴求しています。究極のエコカー候補は水素を用いた燃料電池車です。排出ガスが水蒸気のみと正に究極の動力源ですが、まだまだ燃料電池本体が高価であることや水素の供給インフラ整備に時間がかかることから、世界中で数多くの研究開発が行われているとはいえしばらく時間が掛かると思われます。

〈安全で快適な車を目指して〉
 もう一つの自動車技術の大きな変化は、安全装備の拡大に沿った周辺監視システムの拡大です。バックする際にナビゲーション画面に後方視界を写し、画面上の表示によってハンドル操作を教示するバックガイドモニターや、更には進化した電気式パワーステアリングを応用して自動で駐車動作を行うIPA(アイパ:インテリジェントパーキングアシスト)という装備も現れてきました。また、小さな子どもを巻き込むことが無い様、助手席ミラーの下を監視するカメラや、狭い路地から出るときに左右の確認を行う為の車両の先端につけられたカメラなどが実用化されています。最近では障害物を補足し音やシートベルトの動きで警報を発したり、衝突が避けられないと判断するとブレーキをかけたりシートベルトを強く巻き上げて衝突時の危険度を低減する等のレーダー技術を応用した安全装備も拡大の一途です。一方、かなり普及してきたETCや、情報センターと電話で接続して道路情報、音楽配信、盗難通報するシステムなど電波機器が次々と登場してきました。

〈自動車業界と電線業界の交流〉
 以上の2つを電線から見てみると、車のパワーがだんだん電力に移行していき、パワーケーブルの低コスト化やアルミ化等の軽量化が期待されることと、カメラ・レーダー等のセンサーや各種アンテナの増加に伴って高周波ケーブルやデータ通信ケーブルが増えワイヤーハーネスの作り方も変わってきます。車の中でエネルギーと情報をいかに伝えるかと言うところに軸足が移っていくと思われます。プリウスのハイブリッドシナジードライブを引用して、電線への私の期待を込めてHYBRID SYNERGY OF INDUSTRIES,ALL OVER THE WORLDという言葉で講演を締めくくりました。

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