水力発電よもやま話
洛友会会報 208号


水力発電よもやま話

美濃 由明(昭56年卒)

 地球温暖化防止のための京都議定書がようやく発効し、自然エネルギーや原子力の活用など温暖化ガスの排出が少ない発電システムや、エネルギーの効率利用がこれから益々重要になってくるものと思います。水力発電は、自然エネルギーの活用で経済的に競争力のある唯一の発電方式ではないかと思います。残念ながら、日本では、経済的に開発できる大規模な地点は残されておりませんが、世界に目を向けると、経済的に開発できる地点はまだまだたくさん残っています。特に発展途上国では、水力発電は燃料が不要というメリット(化石燃料を輸入する外貨がいらない、自国で出る化石燃料は輸出して外貨を稼ぎたい)があるだけでなく、治水・灌漑や生活用水の確保のために多目的ダムが必要といったニーズもあり、開発意欲が高いようです。ダムによる自然破壊といった批判もありますが、ダム湖によって新たな自然体系ができると考えることもできますし、地球温暖化対策としての水力発電の活用が、もっと脚光を浴びてもいいのではないかと思っています。
 水力発電は、自然エネルギーを活用しているため、周辺の自然環境との相互作用なしでは存在しえません。仕事で何年か関係してきた中で、意外だったこと、面白かったことなど、色々なことを見聞きすることができました。その中で印象深かったものをいくつか紹介したいと思います。なお、古い話もあり、数字等不正確なところがあるかもしれませんが御容赦下さい。


(1)大雨が降ると出力が下がる
 台風などで大雨が降ると水が増えるのだから、水力発電所はフル出力で運転できるはずだ、と単純に考えていたのですが、実は、川の水が増えすぎると出力が下がる発電所が多い。これは、放水口のところで川の水面が上がると、落差が小さくなるためである。さらに、立地条件によっては、川の流量が多いと、水車への土砂の流入を避けるため停止することもある。あまり水が多すぎても困るのです。


(2)えん堤の遺跡?
 出力100kWにも満たない小さな水力発電所で、毎年のように取水口回りの土砂を取るのに修繕費がかかり経済性が悪いというので見に行った時の話です。取水口地点で川を見てもえん堤がない。「えん堤はこれです」という説明で足元を見てみると河原にえん堤の頂上だけがあるのです。実は、下流1kmほど離れたところに砂防ダムができて、たまった土砂で川底が上がりえん堤が埋まってしまっていたのです。「昔はえん堤でせき止められてできた貯水池に飛び込めたのですが」ということですが、今やえん堤は遺跡に…。なお、土砂の問題は、土木部門で取水口を改造して対応してくれました。


(3)狸の夫婦?
 これも300kWぐらいの小さな発電所での話です。水車の振動が大きくなって非常停止したので調べてみると、水車ランナに狸の死体が詰まっていました。取水口のスクリーンは通り抜けるはずがないので、スクリーン以降のわずかの隙間から落ちたとしか考えられない。ちょうどガイドベーンの隙間は通れるが水車ランナの羽の間は通れないという微妙な大きさだったためそこで引っかかったようです。再発可能性のある隙間は塞いでおかなければならないが、こんなドンくさいやつはそうおらんだろうからそれほど急ぐこともないか、ということで結局、少したってから隙間を塞ぐ対策を実施しました。それから1年ほど過ぎた頃、定期点検だったか何かの機会で水車をのぞいてみると、白骨化した狸の死骸があったのです。水車の振動記録を詳しく調べてみると、前回、狸が落ちてからそう時間がたたないうちにまた落ちたらしい。今回は引っかかり方が良かったのか、あまり振動が大きくならず気が付かなかったのです。ひょっとしたら狸の夫婦だったのでしょうか…。


(4)魚がいっぱい
 揚水発電所の上池は、川のないところに作られる場合が多い。従って、水は下ダムからポンプアップして貯められる事になるのですが、結構大きな魚がたくさんいるのです。卵や稚魚が水と一緒にポンプアップされてくるのでしょうが、300m−500mにもなる水圧に耐えて生き残っている生命力には驚かされます。また数年前まで、沖縄で海水揚水発電(下池が海)の実証試験が行われておりましたが、試験を始めて1年ほどたつと、上池は、海草が生えて大きな魚が泳いでいるという、まさに海になっていたそうです。自然の力強さを実感します。


(5)二度と見られない風景
 黒部峡谷入り口の宇奈月温泉のすぐ近くに、国土交通省の宇奈月ダムがあります。トロッコ電車に乗って宇奈月ダムを過ぎるとすぐに、西洋のお城をイメージした形の新柳河原発電所が見えてきます。この発電所は、対岸から見るとダム湖に浮かぶお城をイメージしてデザインされたということです。実際に宇奈月ダムが竣工試験で最高水位まで水をためた時の写真を見ましたが、ちょうどそのイメージに合った風景になっていました。しかし、この風景はこれからも見ることができるのでしょうか? 竣工試験を除けば、宇奈月ダムが設計上の最高水位まで水を貯めるのは、100年に1回といった洪水時だけでしょう。そんな天気のときに景色を見に行く人がいるはずはない。ということは、設計イメージにぴったりと合うこの風景は、まず見ることができないことに…(見に行っておけばよかった)。とはいっても、宇奈月ダムのダム湖越しに見る発電所の風景はなかなかのものです。また、ダム湖を望む風景は、上流部の圧迫感のある深い渓谷とは対照的に、ずいぶん広々とした感じになったように思います。新柳河原発電所の対岸には町営の露天風呂もできておりましたので、黒部峡谷へも是非一度お出かけ下さい。

 とりとめのない話になってしまいましたが、自然エネルギーが脚光を浴びる中、自然エネルギーの優等生である水力発電が良い意味であまり注目されないことを残念に思っています。ここに書きましたように、水力発電所は、自然の中で毎日働いています。本稿が、自然エネルギーである水力発電に親しみを持っていただく一助にでもなれば幸いです。

 

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