会員寄稿(4)
洛友会会報 210号


羊の国で

段上 玲浩(平成8年卒)

9月18日
  妻と初めてのニュージーランド旅行に出発だ。旅行先を半ば勢いで決めたようなところもあって、ニュージーランドで何が見られるのか、何ができるのか、正直よく分からない。旅行を決めたあと、周囲からも「ニュージーランドって何があるの?」とよく聞かれたが、返事に困った。「羊かなぁ」など力無く答える程度で、逆に質問者に「この人はなぜ行くんだ?」みたいな妙な思いをさせたような気がする。
  海外行きは新婚旅行以来2回目だが、今回は新婚旅行時と違って添乗員がいない。ちょっと不安があるが、ちょっと困るくらいが海外旅行らしくて良いんじゃないか。
  そういえば前回のイタリアではひどかった。英語もイタリア語もあまりにお粗末で、一番通じたのは「日本語」。妻の失望の視線が痛かった覚えがある。今回はあれから自分なりに英語も勉強したし、流暢なイングリッシュでも駆使して妻を感心させてやるか。ニュージーランドで胸を張る自分の姿を想像しつつ、機内で眠りにつく。
9月19日
  眠い目をこすりながら春先のオークランドに降り立つ。旅の期待感に胸は高まるばかりだ。しかし、税関ではまるで英語が聞き取れず、こちらからの話しかけも通じず。最終的には向こうが根負けして通してくれたような状態で、いきなり妻から若干のダウン査定を食らったような気がするが、結果として入国できているわけだし、まあ良しとしよう。
    国内線でクライストチャーチ行きに乗り換えようとしていたら、トラブル発生。クライストチャーチが十数年ぶりの積雪で終日閉鎖だという。こんな時に降らなくても。明日は飛んでくれれば良いが.
9月20日
  今日はクライストチャーチに飛べるとのことで安心。空港内のカフェでは日本の年輩の団体客が朝食を求めて並んでいる。見ていたら、店員に「パン、プリーズ」を連呼している大阪のオカン(推定)がいた。パンじゃいかんだろ。パンじゃ。でもしっかりパンを買えているあたりは凄い。さすが大阪のオカンだ。   クライストチャーチでは町のあちこちに昨日の大雪の雪かきのあとが残っている。雪が積もることは少ないらしく、市内では子供が珍しい雪で遊んでいた。子供は世界中どこでも一緒だなとほほえましく見ていたら、雪玉を投げつけられた。これも世界共通か?
9月21日
    朝から英字新聞を眺めてニュースを読んだ気になってみる。阪神のマジックがいくつになったのかが気になるが、当然載っていない。帰国したときの楽しみにすることにしよう。   今日はセスナで氷河を遊覧飛行したり、渓谷を見ながら600qのバス行程を経てクイーンズタウンへ移動する。ニュージーランドの自然を堪能できる一日になりそうだ。
  美しい緑の牧場、草をはむ羊たち、静かな紺碧の湖、遠く白い山並み。素晴らしい自然を満喫する。あまりの素晴らしさに、まさに言葉がない。自然に対して完璧という表現は不適当かもしれないが、まさに完璧だ。これを皆見に来るんだと納得するとともに、この瞬間、いわゆる観光スポットを見て回るのではないこの旅がいたく気に入った。
  クイーンズタウンに着いたら顔が痛い。聞いてみたら、同緯度に工業地帯がないので空気が澄んでおり、地上に降り注ぐ紫外線が日本の数倍なのだとかいう話。日焼けを通り越して火傷クラスのダメージを負ってる気がする。そんな話は出発前に言っといてくれ、と思う。
9月22日
  今日はフィヨルドで有名なミルフォードサウンドへ向かう。今日も素晴らしい風景だ。
  バスでの移動中、羊の群れに行く手を阻まれるが、にこやかに羊の群れを見送る。ニュージーランドの自然にすっかりとけ込んでいる自分に気がつく。
  フィヨルド地形の美しさについては想像がついているつもりだったが、遙かに想像を上回る美しさだ。フィヨルド観光船のオープンデッキで世界中の様々な国の人々が皆一様にその美しさに息をのんでいる。そんな眺めに感慨もひとしおだ。
9月23日
  残念だが明日帰らなければならない。ニュージーランド最大の都市オークランドに移動する。ここでは昨日までと打ってかわって、都会の街並みを味わう。オークランドの観光タワー、スカイタワーでは、むりやりな英語とヤケに近い度胸が功を奏し、スカイタワーからの眺望と妻からの尊敬の視線を得ることができた。上出来(出来過ぎ)である。
  私をいい気分にしてくれるニュージーランドをなんだかすっかり気に入ってしまった。
9月24日
  もう日本に向かう機内の人である。この1週間を思い返す。かえすがえすも素晴らしい旅だった。単なる観光にとどまるのではなく、現地にとけ込んで精神的な安らぎも得ることができた。
  ニュージーランドで活躍している現地日本人の姿は、自分の励みにもなった。お互いの半球で頑張ろうじゃないか。
  気になる妻の評価ポイントもそこそこ上昇した・・・よな?
帰国後。
  改めて、「『ニュージーランドって何があった?』って聞かれたらなんて答えよう?」と考えてみた。   牧場の緑?白い山?静かな湖?美しいフィヨルド?・・・どの言葉でも自分の感じたものを表現できないような気がした。
  「羊かなぁ」。今度は力強く答えることにしよう。

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