同窓会だより
洛友会会報 214号


海抜4200メートルの同期会

 平成18年9月5日、電気電子昭和34年卒の同期会を海抜4200メートルのハワイ島マウナケア火山頂上にある国立天文台すばる望遠鏡で開催しましたので報告します。数年前から天文台や宇宙開発の世界に太い人脈を持つ同期生の畚野信義君のお誘いを受けていたのですが、ようやく実現する運びになりました。しかし高度馴化を必要とする高山であることから辞退される同期生もあり、結局、長尾真洛友会長を含め同期生13名、家族3名、それに特別参加の木村磐根洛友会幹事を加え、総勢17名の参加でした。
 天文台との交渉、現地のマイクロバス、防寒着、弁当の手配など面倒な準備を全て畚野君にお願いしたまま、9月4日、参加者は軽装で三々五々ハワイ島ヒロ市に現地集合。余裕を持って前日に入った方も数名あり。4日は3台のレンタカーに分かれてハワイ島を探索。1台はハワイ島の東北部にあるワイピオ渓谷を探検。2台はキラウェア火山と chain of craters road へ、そのうちの1台は溶岩流の先端が水蒸気をあげて海中に没する状況を踏査。夕食はホテル毎に取ったが、翌日の高度馴化に備え禁酒禁煙禁芋類豆類で全然気勢が上がらない。
 5日早朝窓外を見るとヒロ湾越しにマウナケア山が朝日に赤く染まっている。素晴らしい景色だ。山頂にドームが三つ見える。すばるはどれだろうか。この山は溶岩の粘度が非常に低いのでダラダラと裾野が長く、富士山より高いとは到底思えない。8時半 Jack's Tour 社のドライバー付のマイクロバスバスと畚野君の車の2台に分乗して出発。出発前にJack's Tour 社の賠償免責書、危険承諾書に署名する。10時ビジターセンターのあるOnizuka Center着、国立天文台の林左絵子助教授の出迎えを受け、本日の見学のスケジュールや注意事項を聞く。ヒロ勤務8年とのこと。このような才気煥発の女性が宇宙研究の最先端で頑張っておられることを知り頼もしい限り。ここで再び国立天文台の賠償免責書、危険承諾書に署名する。死亡リスクが原子力発電所よりはるかに大きいと言うことだろうか? Onizuka Center は高度3000メートル、既に樹林帯を抜け岩屑の間から乾燥地特有の植物が花をつけている。30分の高度馴化ののち出発、11時山頂に着く。山頂は見渡す限り火山の溶岩礫に覆われた月世界のような風景である。観測環境は平均気圧2/3気圧、夜間の気温零℃、晴天率65%。冬は吹雪の日もあるとのこと。ここは11カ国の経営する13の望遠鏡が集まる天文台銀座である。その中で一際目立つ大型の観測所がすばる望遠鏡。
 林助教授と高見英樹助教授の出迎えを受け、すばる望遠鏡の円筒形のドームに入る。ドーム内は日中も零℃に保たれている。これは夜になって観測を開始するときドームの内外の温度差が無いようにとのこと。温度差があれば当然空気が揺らぎ観測精度が落ちる。防寒着と手袋をつける。呼吸は胸部X線撮影時のようにいっぱい吸い込みしばらく止めてゆっくり吐く。歩行はゆっくり。林助教授と高見助教授の2班に別れ見学開始。
 すばる望遠鏡は1992年7月山頂で起工式、1999年1月試験観測開始、総工費400億円。主鏡は口径8.2m、厚さ20cm、22.8トン。主鏡で受信し反射した光を上部の副鏡で再び反射して観測装置に導く。副鏡は用途に応じ交換するが主鏡の上に位置するため作業中に工具を落とさないことが最重要。原子炉の中で工具を落とさないことと同等か? 可視光、赤外線の波長に応じまた波長分解能に応じた8個の観測装置が主鏡の周りの円形のレール上に所狭しと並んでいる。使用中の観測装置の下部に回ると無数のケーブルが錯綜し、これまた原子炉の下部に似ている。すばる望遠鏡、ヒロ山麓施設、三鷹本部は専用ネットワークで直接つながっており、観測装置で得られたデータは5分以内に送信される。
 主鏡、副鏡、観測装置間の見学の移動であるが、エレベータで移動すると気圧の急激な変化がきつい、階段を上ると動悸が激しい、2/3気圧での見学はなかなか大変である。Onizuka Center での高度馴化の甲斐なく13人の同期生のうち3人が短時間酸素タンクのお世話になる。70歳の日本人男性の高度馴化能力に関する貴重な統計データである。2人の女性参加者は強い。1時に Jack's Tour 社用意のお弁当、食欲があるのかないのか自分でも分からないまま結局一粒残さず食べる。林助教授の弁当はご夫君作成の愛夫弁当。
 午後は米国スミソニアン天文台と台湾の共同経営のサブミリ波干渉計の見学。クリスチャンスン氏の説明にでてくるサブミリ波とギガヘルツを換算しているうちに説明はどんどん進む。干渉計ということで10個足らずの同型の大きいアンテナが距離を置いて整然と並んでいる。さらに英、蘭、加の三カ国共同のジェイムズ・クラーク・マクスウェル望遠鏡を見学。これはサブミリ波の望遠鏡。クレイグ氏のスコットランド訛りの説明を受ける。ここの自慢は帆船の帆のような巨大な風除け。
 3時山頂を出発し、Onizuka Center で小休憩、4時半ヒロ市のハワイ大学内に設置されたヒロ山麓施設に到着。ここで高見助教授から「すばるレーザーガイド星補償光学系プロジェクト」の説明を受ける。これは空気の揺らぎの影響を瞬時に補償し、望遠鏡があたかも宇宙空間に存在するかのように観測することを可能にする装置である。電離層にレーザーを当てて見かけ上の人工の星を作り、その星の観測の揺らぎを瞬時に補償するよう鏡面を制御する。この装置は近々実用に供されるが、これにより宇宙空間に浮かぶ米国のハブル望遠鏡と競争できることになる。宇宙の起源についての新しい発見の報がこれまで以上に続々と日本から全世界に発信される日は近い。畚野君は高見助教授の元上司とのこと。最後に高見助教授自ら天文台ロゴ入りのTシャツその他のお土産グッヅを満載した段ボールを持ってきて下さる。Tシャツ1枚を購入、10ドル。思えば林助教授と高見助教授はわれわれのために丸々一日を割いてくださった、ただただ感謝。林助教授のご夫君である林所長の見送りを受け、あまりにも充実した一日に少々疲れを覚えつつホテルに向かう。
 5日夜の全員参加の打ち上げ会には数名が天文台ロゴ入りTシャツで参加。禁酒も解け、やや豊満な体型のダンサーがステージ上でフラを踊るのを横目に、波乱に満ちた一日を改めて噛み締めつつ、また、このような素晴らしい同期会を企画し実現してくれた畚野君に感謝しつつ、会はとめどなく盛り上がった。打ち上げ会の終了でもって同期会は現地解散となった。6日以降、キラウェア火山探索、ハワイ島一周ドライブ、ワイキキの浜辺での水泳など思い思いの休日を過ごしたが、なかでも深尾君と松田君は11時間を掛けてマウナロア火山(4169メートル)の登頂に成功するという快挙を果たした。6日、ヒロからホノルルに向かう機上からマウナケア火山とすばる望遠鏡を探すが雲に隠れて見えない。でもいい、もう充分楽しんだのだから。

  文責 青木英人 (昭和34年卒)

 
   
   
   
   

 

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