巻頭言

洛友会会報 218号


電気工学、万歳

関西支部支部長 
田中 宏毅(昭43年卒)

  今年8月中旬の暑さは並大抵ではなかった。各地で観測史上最高気温を更新し、熱中症で倒れた人も多かったようだ。これを地球温暖化と直結するかのような記事も紙上をにぎわせていたが、考えてみれば、今回記録を塗り替える数十年前にも今年と同程度の暑さを記録している時があったわけで、最近気温が上昇しているのかどうかをストレートに表わしている訳ではなく、むしろそれから何十年も記録が塗り替えられていなかった事の方に意味があるのかもしれない。
 地球の温暖化が本当に進んでいるのか、CO2の排出量がそれにどれくらい寄与しているのか、CO2排出の根源である化石燃料は本当に枯渇するのか、諸説紛々であるが、ここでどの説が正しいかなどといったことを論じるつもりはないし、またその能力もない。要は可能性の問題であって、もしこのままCO2を出し続けて地球温暖化の影響が無視できないくらい大きなものになるとしたら大変だし、一方化石燃料はあと何年もつかわからないが有限である事は間違いなかろう。従って時間的な緊急性に議論の余地はあったとしても、早晩脱化石燃料に向かって行かなければならないという方向性に疑う余地はない。
 私は社会人としての大部分を火力屋として生きてきており、化石燃料を燃やして発電すること、またその発電所を造る事に携わってきたから、脱化石燃料の方向性には一抹の寂しさを感じる。しかし、火力屋の仕事は化石燃料を燃やすことではなく、熱、圧力、化学反応、回転機器、電気、制御などを扱う仕事である。その仕事を通して培った技術は脱化石燃料の世の中でも大活躍するはずである。例えば原子力発電はボイラか原子炉かの違いだけで蒸気タービンを回して発電する訳で、火力の技術の大部分が応用できるし、風力発電は回転機器、燃料電池は化学反応である。何より、火力発電所におけるエネルギー有効利用技術、省エネ技術は、当面化石燃料の使用量を抑制し、ひいては資源の延命化を図り、CO2排出の削減ができるので、世の中の様々な場面で活用しなければならない技術である。実際、一般産業界における工場のエネルギー診断、エネルギーコンサルといった仕事にも、火力技術が生かされている。
 ところで、脱化石燃料を目指す方向性に疑いの余地がないならば、一番の旗頭は核分裂、核融合のエネルギーを使う原子力であることはまず間違いない。傍らで自然エネルギーの活用拡大も進めなければならないし、また水素エネルギーについての技術開発も必要ということにも異論はあるまい。このため燃料として水素を使う新しいエネルギーシステムの研究開発が世界的に進められている。もっとも水素は自然界に単体で存在する訳ではないから、何かから作らなければならない二次エネルギー、あるいは電気分解で作るなら三次エネルギーであり、当然その際の一次エネルギーは何か、というのが問題となる。また現状において、水素利用機器の代表は燃料電池であり、エネルギーの利用形態は電気が中心でとなっているようであるが、燃料電池で作り出す電気は三次エネルギー、四次エネルギーということになるから、常識的には水素、燃料電池を介さないで発電した方がエネルギー効率はいいということになる。いずれにしろ脱化石燃料のエネルギーはそれぞれに様々な課題を抱えていて、一朝一夕に飛躍的に普及するというわけにはいかないが、着実に進めていかなければならない。
 そこで、言いたいことは、脱化石燃料のエネルギーが何であれ、共通して言えることはエネルギーの利用形態として電気をベースとしなければならないということである。原子力はもちろん、太陽光、風力、地熱などの自然エネルギーしかり、燃料電池、バイオマス発電しかりである。つまり電気はこれからも必要欠くべからざるものであり、電力工学、電気工学、電気利用機器、電子工学といった電気系の技術は未来永劫、世の中のベースとして存続し続ける必要がある。にもかかわらず、昨今、若者の理系離れ、特に原子力、金属、電気など基礎分野が敬遠され、憂慮すべき事態であると聞く。電気という名前も人気がない原因のようで、電気系の講座を有する大学200校近くのうち電気の名前のついた学科を持つ大学は12校のみとか、今や絶滅の危機に瀕している。                
 大げさかもしれないが、学生たちが地球の未来を担う電気の重要さを再認識し、夢を持ってチャレンジャブルに取り組み、電気系工学を専攻することに魅力を感じてもらえるよう、大学も努力しなければならないだろうし、その卒業生を受け入れるべき企業もその魅力をPRしていく必要がある。そのためにも電気系技術者は自らの仕事、技術に誇りを持って胸を張って頑張って欲しい。
 先輩が輝いていれば後輩も魅力を感じるはずである。今も、これからも電気は必要、電気が世の中を支えていくのだ。電気の未来は明るいのだから、かつての輝きを取り戻す日もそう遠くはない、と信じている。



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