巻頭言

洛友会会報 219号


図書館について

洛友会会長 
長尾 真(昭34年卒)

  新年明けましておめでとうございます。 洛友会の皆様方には清らかな新年を迎えられ、心を新たにして今年のあるべき姿、自分のやるべきことを静かに考えておられることと存じます。

 昨年も洛友会は例年どおりに順調に活動をしてまいりました。特に東京支部は講演会を積極的に行うなど、活発な支部活動を行われ、喜ばしく存じます。電気系教室におかれても桂キャンパスでの教育・研究が定着し、新しいセンター・オブ・エクセレンス(COE)予算も取ることができて、ますます発展しておられることは心強いことであります。洛友会事務局も教室にお願いしてよく運営していただいており、感謝いたします。

 さて、私は昨年の4月に国立国会図書館長に就任してから今日まで、図書館のことについていろいろと経験してきましたので、そのことについて少し話をさせていただきます。
 図書館は大きく分けて、小中高校にある学校図書館、大学にある大学図書館、一般社会の人々を対象とした公共図書館、企業や専門分野の協会などが持っている専門図書館、それから国立国会図書館という5種類が存在します。その中で家庭に最も近いのが公共図書館で、県立、市立、町立などの図書館があります。これらはそれぞれの地域に密着して住民の要望を満たすべく図書や雑誌を選び、閲覧に供するとともに貸し出しなどをしています。
 今日の公共図書館にはいろんな悩みがあります。そのひとつは予算がどんどんと削減され、また図書館職員の数も減らされていることです。ひどい場合には、図書館長以外はすべて外部の人材派遣会社に丸投げで運営を任せてしまっている自治体も存在します。図書館は単に要求された本を貸し出すだけではなく、こういうことを知りたい、こういった関係の勉強をしたいといった質問の相談に乗って、適切な本を紹介することが一つの大切な仕事なのですが、そういったことは経験を積んだ専門の司書でないと十分にはできないのです。したがってアウトソーシングでは図書館のサービスの質が低下してゆくわけです。
 ベストセラーの本などには貸出の要求が集中するものですから、一つの図書館で同じ本を何冊も買って貸出要求に応えるようにしていますが、そうすればもっと違った良い本を購入することができなくなってしまいます。最近は年間に8万点もの新刊書が出され、雑誌も数千の種類が出ていますから、それらの中からそれぞれの地域の図書館にとって適切な本を選ぶということは大変難しい仕事なわけです。図書館としては5年、10年たっても利用される本をできるだけ多く購入したいということですので、ベストセラーを何冊も購入することは悩ましいことなのです。
 私のいます国立国会図書館は大変特異な存在です。図書だけで約900万冊、その他資料類を合わせると約3300万点を持っていますが、名前が示しますように、この図書館は国会に対するサービスが第一の使命で、国民に対するサービスはその次に位置付けられています。国会に対するサービスというのは、国会議員の行う国会の各種委員会での質問、その他いろいろな議員活動のための資料要求や質問に対応することや、議員立法をするときの各種調査資料の提供などです。国会図書館自体が直接調査をすることはありませんが、調査資料などを取り出して整理し回答するとか、特に最近では同じような問題に対して海外の各国はどういう状況にあるか、どのように対処しているかといったことの調査があります。昨年度は1年間に4万5千件もの問い合わせが国会議員からありました。
 国民に対するサービスとしては、これまでは全国各地の人たちの要求がその地の公共図書館で応えられない時に、その公共図書館から国会図書館に問い合わせがあって、それに応えるという形、すなわち公共図書館のバックアップ図書館として機能してきました。しかし今日ネットワーク社会となってきましたので、人々は直接国立国会図書館にアクセスして資料要求すれば、その資料のコピーサービスを受けられるというシステムが構築され、どんどんと使われるようになってきています。皆様にもぜひ一度国立国会図書館のウエブサイトを見ていただきたいと存じます。
 さて、最近はインターネットを通じて非常に多くのことを知ることができるようになってきました。ウィキペディアという名前の電子百科事典は多くの人がそれぞれの知恵を出し合って作っているもので、30万、40万項目ともいわれる内容があります。書かれている内容の信頼性はやや低いようですが、多くの人は便利に使っていて、家庭で百科事典を買う必要がなくなっています。青空文庫というのは、著作権の切れた小説などをコンピュータで自由に見ることのできるもので、本を買う必要がありません。アマゾンという検索システムを引けば、自分の欲しい本を注文して数日で手元に届けられます。グーグルは図書の電子化をどんどんと進め、これらを広く世界に公開しようとしております。このような動きの中で、これからの図書館がどうあるべきかは真剣に問われねばならない状況にあるわけです。時代が急激に変化しております。
 洛友会の皆様に中でも、若い人たちの多くはこういった情報過多の環境をも自分なりにうまく利用しながら生活しておられるでしょうが、年配の多くの人はこういった動きになかなかついてゆけずに困っておられるのではないかと推察いたします。私もその一人で、手元のパソコンが変な動きをするともう全くお手上げで、息子が来て直してくれるまでは多くの知り合いとのメールの連絡もできず、イライラの毎日となってしまいます。誰でも簡単に気楽に使えるコンピュータを実現しなければならないと以前から主張してきた人間としては、自らそのような研究開発に没頭しなければならないのですが、なかなかそうもゆきません。
 しかし考えようによっては、あまり便利すぎるのも問題かもしれません。なんでも苦労せずにすぐできてしまうとなると、逆にそういったことに振り回されてしまいます。何の情報もない静かな時間を持ち、人生のいろんなことについて深く考え、明日への力を養うということも大切でしょう。昔は立派な生き方をし、日本のために尽くした人々が多くいたのは、そういった時間を持っていたからではないかとさえ思われます。また、自分の好きな本をゆっくりと読みながら過ごすのもよろしいのかも知れません。
 私は国立国会図書館の標語として「知識はわれらを豊かにする」という言葉を掲げました。時間を大切にし、心豊かな人生を過ごしたいものです。今年も皆さんにとって良い一年でありますよう。


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