巻頭言

洛友会会報 222号


「内部統制」と「住友の事業精神」

関西支部支部長 
北井 茂(昭44年卒)


  企業でご活躍の方々は、ここ数年間「内部統制」という言葉に悩まされておられるのではと、お察し申し上げます。私も、法令改正の流れの真っただ中で、いろいろと勉強させてもらっています。
 コンプライアンス、コーポレート・ガバナンス、内部統制といろいろな言葉に出会い、何をすれば良いのかを考えていく中で、これは何も新しいことではなく、昔から学んできたこと、実施してきたことと変わらないとの思いが強くなり、以下に述べさせていただきます。
1、内部統制
 2006年5月に施行された会社法では、大会社の取締役会における「内部統制」関連事項についての決定が、2006年6月に制定された金融商品取引法では、上場会社に対する2008年4月以降に始まる事業年度からの内部統制報告書の提出が求められた。これらが大きな契機となり、一種の内部統制ブームになっている。
 内部統制が日本において広く認識されるようになったのは、2000年の大和銀行事件の判決が、企業における経営者はすべての業務の運営や従業員の行動を直接監視できない以上、それに代わる有効なリスク管理体制、つまり内部統制を構築する責任があるとして、多額の損害賠償責任を認定したことであった。その後の、神戸製鋼所の総会屋問題による株主代表訴訟や、ヤクルト本社事件等々の判決においても、経営者に内部統制構築責任があることを認定してきた。
 内部統制が必要なのは、経営者の責任限定のためだけではなく、内部統制の欠陥が、食品の偽装表示等企業の存続を脅かす事態にいたるケースがある。企業の中に適切な決まり事を設けて、不測の事態に備える事前の安全装置として機能するものである。しかし、単にマイナスを防ぐシステムではなくプラスをもたらすシステムでもあると言える。内部統制を構築していくに当たり、単なる法制度への対応を超えて、いかに自社にとってのプラスを生み出していくかが、企業とその経営者にとっての課題である。
 会社法においては、法令等の遵守(コンプライアンス)を中心とした全社的な内部統制であり、コーポレート・ガバナンスに関連する部分について、特に取締役の責任との関連で取締役会として決議すべき事項に焦点を当てて規定している。金融商品取引法においては、西武鉄道の有価証券報告書の不実記載を契機として、財務報告に係る内部統制について規定している。
 内部統制の根底にあるものは「正しい事業経営」であり、企業の組織内において業務にすでに組み込まれたプロセスである。新たに求められているのは、それをシステム化し、可視化(見える化)することである。
2、住友の事業精神
 正しい事業経営に係る考えの一つが、ここに引き合いに出して恐縮ですが、私も長く勤務する住友の事業精神であると理解する。
 住友の諸事業は家祖住友政友が1630年ころに業をはじめて以来、1945年の財閥解体に至るまでの約300年に亘る家長等によって経営されてきた。その事業経営の指導的精神は、家祖の人生観を基礎として歴代家長等が深化・拡充させてきたものであって、それが住友の事業精神あるいは住友精神と呼ばれている。この事業精神は明治15年に「住友家法」が制定されるに当たり創めて成文化され、その後若干の訂正が加えられたが、実体は変更されることなく昭和3年住友合資会社(住友本家の前身)が制定した社則の中に「営業の要旨」として記された次の3か条からなり、今日もなお住友諸企業の経営方針となっているものである。
 @ 信用を重んじ確実を旨とすべし。
 A 時勢の変遷理財の得失を計って積極的にこれに対応する処置を断行すること。
 B 前項の処置をとる場合は勿論、如何なる場合においても、浮利に趨って軽率、粗略に取り進めてはならないこと。
 さらに条文として成文化されていないが、住友精神として深く伝承されているものに次のようなものがある。
 @ 天地自然および社会に対する報恩の精神
 A 自利利他公私一如の精神
  営利のみに走らず、絶えず公益との調和を計る。企業の社会的責任を常に念頭に置く。
 B 企画の遠大性
 C 技術の尊重
 D 人材の尊重
  企業は人なり。

 これらは当然のことであり、いわば平凡なことであるがゆえに正しい道なのだと思うとともに、内部統制の考えが網羅されているとあらためて確信するものです。今まで実行してきたことをシステム化、可視化するのだと考えれば内部統制への取り組みも、多少気が楽になるかと思います。

 最後に、この拙文が洛友会会報に掲載されるころには、関西支部の家族見学会において住友家ゆかりの泉屋博古館、有芳園を訪れます。なお、本年の家族見学会は見学先の関係で参加者人数を80名に制限せざるを得ず、先着順といたしましたところ、多数の方々の参加の申込みをいただき、お断りせざるを得ない方がありましたこと、この場をお借りしてお詫び申し上げます。今後とも洛友会の発展のために、皆さんのご協力を宜しくお願い申しあげます。

 


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