会員寄稿(4)
洛友会会報 222号


「漢字音符字典」を自費出版

山本 康喬(昭33年卒)

 私は昭和33年電子卒で大手鉄鋼会社に入社し、計測、制御、システム関係の技術者として勤務し、平成8年に定年退職しました。その間通常に社会人として漢字を読み書きしていましたが、敢て言えば50歳より詩吟の練習を始めていくらか漢字に親しんでいたと言えるかもしれません。
 退職後趣味で漢字の勉強を始めました。試しに漢字検定試験を受けましたら2級には合格できました。更に上位の準1級、1級を目指して勉強を続けましたが、繰り返し努力してもなかなか憶えられません。なんとかもっと効果的に憶える方法は無いものかと考えに考え、工夫しました。この時の経験から、漢字を効率的に憶える方法として漢字を音符別に分類して、その中で同じ音符の字をグループとして憶えることが非常に有効な方法であると体感しました。
 音符は漢字の部首を除いた残りの部分、或いは旁(漢字の右側の部分)であることが多く、形声と言う造字法により作られた漢字の発音を表わす部分を指す言葉で、意符(意味を表わす部分)と対を成す言葉です。意符は別名部首と呼ばれ漢字の分類のキーワードとして親しまれてきました。
 同じ音符の字をグループとして憶えるためには、漢字を音符別に分類した字典が必要です。探しましたがそのような字典は世の中にはありません。これは自分で作るより無いと思い立ちました。平成15年に京都に移り住んだのを契機に漢字の分類作業を始めました。前例のない作業でしたので手探りで少しずつ追加修正を繰り返しました。書き直したノートは8回16冊に及びました。
 その間も漢字検定試験は1級を受験し続けました。その結果1級に16回合格できましたが、必ずしも連続で合格できたわけではありません。老いによる記憶の減退と闘い、また出版の締め切りで忙しく時間と闘いながらの勉強でもありました。
 約4年で大体の分類は出来ました。この工夫した漢字を憶える要領をこれから勉強する若い人たちに広く伝えたいと考え、神田の出版街を原稿を持って訪ね歩きました。
 しかし、学者でもない私の漢字の本などどの出版社も引き受けてくれません。自費出版でもと考え新聞広告に出ている会社に見積もりを頼みましたが、字典は版組みにも校正にも大変手間がかかるのでとても高額の費用を求められました。丁度2年半前、元の会社の元役員の方が高校の同級生で大阪で出版社の社長をしている人を紹介してくれました。社長も私の企画を面白いと興味を示してくれましたが直ぐには取り掛かってはくれません。内容についていろいろな検討を重ねるとともに、私のかける思いや販売の見込みについての裏づけを求められました。1年近く経って具体的に作業にかかってくれました。その後、自費出版についての契約書を社長と交わし、お互いの作業分担と費用分担を約束して軌道に乗ったのでした。
 この本は漢検1級の対象漢字約6500字を音符別に分類したもので、私の分類では912音符ほどになりました。もともと漢字全体の約80%の字には発音を表わす字が組み込まれています。そこに着目したのが音符による分類です。音符別に分類すると同じ形の字ばかりが揃う上に読み(音)も同じものや似たものが集まります。また意味も同じ感じのニュアンスを持っているのでまとめて憶えるのに最適のグループになります。但し、音符による分類にはいくらか分類しきれない字が残りました。
 またこの本にはこの他にも漢字を憶えるいろいろな要領を盛り込みました。漢字を勉強するのを趣味にしているグループが横浜で活動しています。この会に参加して多くの経験者から漢字を憶える裏技(漢字を憶える口調など)を聞き集めました。
 この漢字音符字典を眺めると、漢字は音と意味と形をもってつながりあって体系をなしているという漢字全体の構造を理解できるので、ある漢字を思い出そうとする時に他の漢字から類推し、連想を働かせることが可能になります。漢字習得の革新的方法で、これまでの一字ずつ単独で反復練習する方法に比べて、格段に効率的で楽しく学べます。
 漢字を専門とする大学教授や著名人に私の本を贈り見て頂きました。すべての方はわが国で始めての音符で分類した本であると認めて下さいました。また人によっては着想が素晴らしいとか、分類作業の大変な作業量をやり遂げたことを評価するなどの批評を頂きました。
 定年後、音符探しの作業は私に生甲斐と喜びを与えてくれました。新しい音符を発見するたびにわくわくしました。辞書と首っ引きで一人であちこちと見比べていると、時の経つのを忘れました。出版の作業に入ってからは編集や校正に熱中し、また漢字検定試験の勉強も節目節目で集中してやりました。おかげで健康で過ごすことが出来ました。                             
 中高生やこれから採用試験を受ける若い人には特にお役に立つと思っています。社会人や主婦の方には末永く便利に使える実用書です。漢字検定を趣味に勉強している方には絶好の書です。価格は税、送料も含め2390円。電話06-6765-2898 (株)アド・ポポロへお申し込みください。
 これからは、この音符による分類法が広く世の中で活用されるよう普及活動に努めます。それがわが国の学力や技術力を高める有力な道であると信じているからです。小学校から英語教育が始まります。常用漢字が増えます。漢字習得を効率化する方策がなくては日本語の学力が落ちることは避けられません。新たな漢字勉強法が広くお役に立ってくれることを祈っています。
 私は今73歳の高齢ですが、年金を頂き健康で居る限りこれほど自由で思い通りに暮らせる時期はありません。将に人生の林住期と感じております。ありがたいことです。高齢者が年金や健康保険の負担になり若い世代のお荷物になっているのですから、何かできることで世のお役に立ちたい、立つように努めるのが年金世代の義務であると感じます。死ぬまで真剣に前向きに生きることで極力若い世代の負担にならないようにしたいと思います。

  ページ上部に戻る
222号目次に戻る



洛友会ホームページ