会員寄稿(1)
洛友会会報 225号


関西電力・プロジェクト研究室のご紹介

松村正男(昭60年卒・関西支部)

  私は、昭和60年に学部、昭和62年に修士を卒業して、関西電力に入社しました。設備保守や、工事設計の業務を経て、現在は、関西電力の研究所に勤務しています。電力会社の研究所といえば、洛友会の皆さんは、どのようなイメージをお持ちでしょうか。大学の研究やメーカーの研究所と違って、かなり実用に近いところでの取り組みをやっている、そんなイメージをお持ちではないでしょうか。
 もちろん、ユーザーである電力会社の研究所ですので、実現場に即した研究が大切ですし、そのような研究が大半を占めています。ただ、私が今、所属しているプロジェクト研究室は、関西電力の中でも、かなりユニークな存在となっています。本稿では、このプロジェクト研究室の紹介をさせて戴きたいと思います。
 関西電力の研究所は、平成15年に従前の「総合技術研究所」を組織改正し、お客さまへの商品開発・サービス創出を目的とする「エネルギー利用技術研究所」と、電力供給設備に関する技術開発を目的とする「電力技術研究所」の2研究所体制となりました。その中で、当プロジェクト研究室は、電力技術研究所の中において、基礎分野の研究を実施する部隊として発足しました。
 従って、実施している研究分野は、SiCインバータの研究から脱硝触媒の研究まで、幅広い範囲にわたっています。20人足らずの小さな所帯ですが、研究テーマ毎に4グループに分かれて、日々の研究を実施しています。
 
○ パワエレグループ
 SiCパワー半導体を用いたインバータの開発を実施しています。SiC半導体はSiと比較して、その材質面での優位性から、損失が小さい、耐電圧値が高い、などの特長が発揮できるものと期待されています。当研究室で開発したインバータはスイッチング素子にGTOタイプを採用しているのが特徴で、180kVAのSiC インバータ出力は世界最高出力を誇っています。
 また、電力中央研究所と共同で、SiCツェナーダイオードの開発を実施しています。インバータ用途の他、高温動作が可能、広い温度領域でツェナー電圧が安定している、などのメリットを生かしたアプリケーションも期待されるところです。
 現在、当研究室においては、研究会活動を通じて松波名誉教授のご指導を戴くと共に、引原研究室や木本研究室と連携を深めながら、さらなる信頼性向上や出力向上に向けての研究に邁進しているところです。

○ ロボットグループ
 変電所などの当社の構内を巡回し、異常情報を収集できるロボットの開発を実施しています。
 あらかじめレールを敷いておき、レールの上を動く点検ロボットや、アスファルト路面の上に白線を引いておいて、白線をガイドとして動く点検ロボットなどは既に実用化されていますが、そのような周囲環境側での対策をどの程度まで減らすことができるか、という視点を持ちながら、保守現場の実業務に役に立つロボットの開発に着手したところです。保守員に置き換わるロボットではなく、保守員のパートナーとなるロボット、というのが開発コンセプトです。地震・台風など、自然災害時の初動対応にも活躍することが期待されています。

○ 触媒グループ
 京大化学系の井上研究室と連携しながら、新しい脱硝触媒の開発を実施しています。現在の火力発電所では、排ガスの脱硝として、アンモニアを用いた脱硝システムを採用していますが、触媒の力を借りてアンモニアを使わずにメタンによる脱硝ができないか、というのが研究課題です。
 メタン脱硝触媒のアイデアは古くから存在していたのですが、充分な触媒性能が得られないことから、一時の開発ブームを経て開発機運が少しずつ下降傾向にあったようです。そのような中で、井上教授が、有機化合物を高温・高圧下で反応させて触媒を合成する「ソルボサーマル法」を考案され、これにより、高性能なメタン脱硝触媒が得られることが判明し、当社においても研究を活発化させた次第です。
 現在は、ソルボサーマル法よりも製造コストが安価となる新たな製造法の確立に向けて、日々、努力しているところです。

○ ナノ材料グループ
 主に、二次電池の新しい電極材料の開発を行っています。
 高性能な二次電池が開発できれば、電気自動車の普及などを通じて、環境に優しい電気エネルギーの市場拡大に繋がりますし、また、太陽光発電などの分散型電源が数多く連系された場合、電力系統安定化のため、二次電池の性能向上が必須です。
 安定したサイクル特性を持つ材料を得ることが課題です。

 以上、関西電力の研究開発室電力技術研究所プロジェクト研究室の簡単な紹介をさせて戴きました。
 京都大学の電気系の先生方には、引続き、ご指導をお願いしますと共に、研究開発室においては、京大=関電の研究開発面でのさらなる連携強化について模索していきたいと考えています。よろしくお願い致します。
 また、本稿により、当社の研究所にご興味を持たれた学生の皆さんにおかれましては、いつでも見学は可能です。桂キャンパスを徘徊している社会人ドクターの林利彦氏(木本研究室)に気軽に声をおかけ下さい。








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