会員寄稿(2)
洛友会会報 225号


四国の城と城下町

植原 宣和(昭63年卒・四国支部)

 巷では歴史好きの女性を指す“歴女(れきじょ)”なる言葉が登場したり、復元作業の終わった熊本城で昨年度の入場者数が200万人を超過するなど、いま歴史がちょっとしたブームになっているようである。NHKの「大河ドラマ」も依然として根強い人気で、特に戦国時代を題材としたものについては比較的高視聴率を稼いでおり、不況と言われる時代ではあるが、歴史ビジネスは上昇トレンドをキープしているのではないか、とまで思えてくる。
 私の住む四国においても、世界遺産等のようにメジャーではないものの、有史以来の様々な史跡が残されており、その中でも、戦国大名のシンボルである近世城郭については、特筆すべきものを有している。
 近世城郭の象徴は何といっても天守閣であり、姫路城を始めとする国宝4城(他は松本城、犬山城、彦根城)等の天守閣の壮大な姿は映像や写真で頻繁に見られる。しかしながら前述の熊本城や大阪城・名古屋城といった有名処の天守閣は、明治以降に再建されたものであり、江戸時代以前に建設された天守閣をもつ城郭は、国宝4城を含めて全国で僅かに12ヶ所しかなく、その内の3分の1にあたる4城郭が、実は四国にあるのである。
 婆沙羅大名として名高い佐々木道誉の子孫京極氏の居城である丸亀城、築城の名人、加藤嘉明が築き伊予松平氏の居城である松山城、独眼竜伊達政宗の長男入封以降伊達氏の居城である宇和島城、「巧名が辻」の舞台の一つで山内氏の居城である高知城、の4城郭がそれにあたるのである。
 今回は、県代表としての城郭(徳島県にはないので3城郭)、とその城下の魅力を簡単に紹介させて頂きたい。
 
○丸亀城(香川県)
 西讃(香川県の西部)の代表都市丸亀市の市街地南部に位置するのが丸亀城であり、標高66mの亀山を利用した輪郭式の平山城である。この城の特筆すべき点はなんといっても石垣であり、天守閣に向けて四段階に積み重ねた石垣は“扇の勾配”とも呼ばれ、日本一を誇る高さで、天に向かって弧を描いて反り返る姿は、石の芸術品とも言うべき見事さである。この石垣、直下から見上げるのが一番だが、JR予讃線や高松自動車道(すこし遠いが)からもはっきりと確認でき、車窓の楽しみになっていると思われる。  
 江戸時代には、「こんぴらさん」への参拝客を乗せた船が、丸亀城を目指して瀬戸内海を航行したとのことであるが、現在でも天守閣からの展望は抜群である。北には旧日本海軍の黎明期を支えた水夫たちの故郷である塩飽諸島が、西には弘法大師空海の生誕地である善通寺の町並み等を遠望することができる。

○松山城(愛媛県)
 「春や昔 十五万石の 城下かな」と正岡子規の句に読まれた松山城は、松山市の市街地のほぼ中央部に位置し、標高132mの勝山山頂で更に高さ約30mの天守閣を誇っており、四国最大の都市のランドマークに相応しい城郭である。天守閣は、大天守・小天守・櫓を連結した“連立式”であり、天守防衛の究極の姿であるとも言われたもので、姫路城と同じ構成である。
 天守閣からの展望も抜群であり、松山平野を360度見渡せる大パノラマを楽しむことができ、天候に恵まれれば西日本最高峰石鎚山(1982m)や瀬戸内の島々、日本一細長い佐田岬半島なども見え、藩主になった気分を味わえるものとなっている。
 城下には、3000年の歴史を持つといわれる日本最古の湯、道後温泉がある等、見どころが多いが、その中でも、NHKスペシャルドラマとして本年末から放映される、司馬遼太郎の長編小説「坂の上の雲」関連の施設・史跡が賑わいを見せている。前述の子規や明治陸海軍を担った秋山兄弟が生まれ育った時代を思い起こさせる。

○高知城(高知県)
 太平洋を望み南国土佐の中心に位置する高知城では、関が原の功績でこの国を与えられた初代藩主山内一豊とその妻千代の銅像が、登城の際に私達を迎えてくれる。一豊の前任居城である遠州掛川城を模して築かれたものと言われている。
 高知城下が最も賑わうのが、毎年8月に開催される「よさこい祭り」である。照りつける真夏の太陽の下で、老若男女が鳴子(鳥を追い払うための農機具から発展した打楽器)を手に乱舞する様子は、日本版リオのカーニバルといっても良いほどである。近年では、札幌や名古屋でのYOSAKOI祭りの方が、知名度が高いのであろうが、あくまでも元祖に相応しい祭りであると言える。

○おわりに
 これまでは、TV等の娯楽情報番組が好む「四万十川」等の自然や「讃岐うどん」等の郷土料理を四国発の情報としてアピールすることは多かったものの、どちらかといえば、歴史・文化面については、インパクトが弱いようにも思えていた。
 しかしながら、前述のとおり、近世の天守閣が現存する4城郭など、誇れる歴史・文化遺産を保有しており、今後よりよい活性化に向けて取り組んでいかなければ、と考えている次第である。
 高速道路の料金が値下げとなり、本州方面(特に関西)から、より身近になったことや、来年のNHK大河ドラマの主人公が坂本竜馬となることもあって、より賑わいが期待できると思われる。
 洛友会の皆様、この機会に、四国へお越し頂き、城郭等の歴史文化に触れるのは如何でしょうか?



  ページ上部に戻る
225号目次に戻る



洛友会ホームページ