巻頭言

洛友会会報 226号


中国、インド、ベトナム

関西支部長 
田村 和豊(昭45年卒)


 洛友会のお手伝いは、約30年振りになります。振り返ると、大学を卒業してからもう40年になります。大学の卒業論文は坂井利之先生の研究室で、コンピューターによる音声分析だった事を思い出します。大学を出てから30数年間電力会社で働いていましたが、3年前にコンピューターシステムの開発・運用を生業とする会社に移りました。久し振りにITの世界に身を置いて、面白いなあと感じている昨今です。
 ITビジネスに携わってから、東アジアの国々を訪れる機会が増えました。我が社の場合、システム開発業務の一部を中国・天津市で実施していますので、中国へは業務の確認・提携のあり方の話で足を運ばざるを得ません。インドへは、若手のシステムエンジニアを教育研修目的で、プネ市(ムンバイ近傍)へ派遣していますので、彼らの激励・インドのIT事情把握のため訪れる事になります。そしてベトナムは、アジアにおける第3のIT提携先と言われていますので、可能性調査のために訪れる機会が生じる訳です。
 ITという切り口でこれらの国々を訪れているのですが、長い間の習性でどうしても電力エネルギー分野にも興味を持ってしまいます。原子力・再生可能エネルギーの開発計画はどうかとか、スマートグリッドは話題になっているかという点です。もっとも各国の電力事情が悪くて停電が発生するようでは、ITビジネスに不安が生じますから、IT面からも電力エネルギー事情は知っておくべきテーマでもあります。それにしても、中国・インド・ASEAN諸国の数多の巨大石炭火力発電所計画を聞いていると、CO2面はどう評価しているのだろうと不思議な気になります。
 この3ヶ国で印象的だった項目を二、三述べてみたいと思います。中・印・ベトナム共に、千年を越える古い農業国家としての基盤並びに社会制度を保持しています。加えて、抑圧を受けた時代の記憶も忘れてはいません。中国人は日本・西欧列強への、インド人は英国への、ベトナム人は中国・仏国・米国への屈折した思いを持っている事を知りました。
 その中で、日本の昭和30・40年代と似た高度経済成長路線を突っ走っており、部分的にはアジア巨大市場を背景に世界最先端の都市景観・産業を発展させつつあるという、何とも刺激的な社会状況を示してくれます。
 これらの国々を訪れた方は、その混沌とした交通事情に目を見張るというか、馴染めなかったのではないでしょうか。幹線道路上であっても、自動車・バス・バイク・リキシャ・自転車・通行人・動物が勝手に通行している有り様です。交通マナーは何ですかと聞くと、「勇気ある者優先です。」との返事があり、何となく納得してしまう風景です。インドのタタグループが「ナノ」という20万円の乗用車を販売し始めていますが、ああいうサイズと価格・機能の車は東アジアに合うように感じられてなりません。
 こういう社会でIT業界に職を得るという事、つまりプログラマー・システムエンジニアになるという事は、大変魅力的な事のように映ります。給料面では医者に匹敵するレベルが可能のようでありますし、新しい仕事だけに従来の身分制度・地域制度という因習を突破できる職業となっています。さらにインターネットの世界では、24時間最先端の情報に触れる事が可能であり、起業次第では過分の富を手に入れる事も容易です。
 若者達が目の色を変えてITに取り組む事情も理解できます。新卒後一・二年のIT技術者に夢を聞くと、3ヶ国共に、マイバイク・マイカー・マイマンションを望み、安定した高収入を得ながら世界をリードしたいと言います。「マイクロソフト」のビル・ゲイツや「アップル」のスティーブ・ジョブズのようになりたいという声が何人かから出てきます。夢があるのだなあ、我社の新入社員の面接の際にこういう夢を語る若者はいたかなあと思ってしまいます。
 またIT技術者に占める女性の比率も日本とは相当な違いがあります。3ヶ国の中堅以上のIT企業では、システムエンジニアの女性比率は約3割と言われていますが、我社の場合1割です。
 我社が5年程前に東アジアでのシステム開発業務実施に挑戦したのは、約1/4というシステムエンジニア人件費の安さの有効活用を図るためでした。あれから年月が経ち、各国の人件費は急速に上昇してきましたが、まだ東アジアでのシステム開発業務のメリットは薄れていません。マネージメントさえしっかりしてやれば期待のコスト削減は可能です。加えて、各国のIT技術レベルが向上し、部分的には我々と切磋琢磨する段階になってきました。ある意味で優秀なIT技術者を確保するという観点からも、東アジアでのシステム開発が重要になっていると言えます。国内と東アジアのITビジネスは統合的に考えるというのが当たり前になっています。
 中国はこの30年間重厚長大産業の発展に力を注いできました。その反映として、金属・エネルギー・水等の貴重な資源を大量に利用し、環境に厳しい影響を与える結果となりました。その評価を踏まえ、政府はITを中心とした軽薄短小産業に対し、ここ数年、支援を強化するようになってきました。IT産業の特徴といえる環境負荷の低さ、労働集約産業が持つ就業人数の多さ、さらにはインドのIT産業の成功例を勘案したものと思われます。中国のIT企業経営者は今後の国内市場の発展に期待を示すようになっています。
 東アジア各国が重視する産業を見ていると、日本の産業政策の参考となるだけではなく、東アジアの巨大市場の将来も予測できるように感じます。
 「改革開放」、「資本自由化」、「ドイモイ」と、国家の枠組みを改編して国富の強化を目指す中・印・ベトナムを見ているだけでも、東アジア30億人の国々と共栄していくという事は我々にとって大きなチャレンジだなあと感じる次第です。


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