会員寄稿(3)
洛友会会報 226号


嵐がもたらした小さな変化

山本 武司(平4年卒・中国支部)

 朝ぎりぎりまで寝て、起きたら洗顔、着替、朝食と、出勤までの30分程度のプロセスにスキはなく、家族とゆっくり話す余裕もない。また、予定のない休日の朝は、二度寝、三度寝を繰り返し、あとで休日の時間を浪費したことに若干の後悔を覚える。これまでの自分の典型的な朝のスタイルである。ところが、長年続けてきたこのスタイルが”嵐”により変わりはじめている。
 嵐は2ヶ月前に我が家へやってきたボストンテリアという種類の犬で、この原稿を書いている時点で生後4ヶ月になる。人間で言えば6才ぐらいであろうか。ボストンテリアは室内犬で、米国のボストンで、ブルドッグとイングリッシュ・テリアを掛け合わせて生まれたといわれており、黒地に白の模様がタキシードを着たような印象から「小さなアメリカ紳士」と呼ばれている。簡単に言えば「のらくろ」に似ているが、モデルというわけではないようである。
 きっかけは、ペットを飼育してもよい住居に引越し、子供たちが「犬飼いたい〜!」を連発しはじめた、というよくある話である。もともと自分は特に犬好きとか、動物好きというわけでもなく、いつかは犬を飼いたいと思っていたわけでもない。どちらかといえば、犬を室内で飼うことには抵抗があった方である。しかし、子供たちの要求を否定するほどの理由もなく、週末にペットショップをまわっているうちに、たまたまボストンテリアという犬種を知り、興味をひかれた。チワワやプードル、ダックスなどの一般的に人気のある犬種を考えていた家族からは、「なんで?(こんなぶさいくな犬を)」とはじめは全く理解を得られなかった。そうこうしているうちにブリーダーショップのホームページでボストンテリアの子犬が4匹生まれたとの情報を見つけた。電話してみると、すでに3匹は飼い主が決まったとのことで、急ぎ残りの1匹を見に行った。ぶさいくと言っていた家族も、その愛嬌を認めはじめており、今決めなければ当分は手に入らないということもあって、その場で飼うことが決まったのである。
 そして3週間後、嵐は我が家へやってきた。経験のある方はお分かりと思うが、もっとも悩まされているのが便の始末である。まだ室内ではサークルに入れており、たいていその中のトイレで排便するので、すぐに片付ければ問題はないが、ちょっと目を離したすきや、留守をした時などには自分の便を踏んでしまい、その足で歩いてサークル内やベッドを汚してしまう。硬い便(良い状態)であれば踏んでもあまり影響はないが、便が軟らかいと被害は甚大である。小さいうちは排便の回数も多い。嵐は軟便のことが多いため、我が家では一日に何度もサークル内の掃除や、ベッドなどの洗濯に追われることになる。
 そんな中驚いたのが、子供の行動の変化である。今までは、少しでも臭いところや汚いものは極端に嫌がっていたのに、自ら進んで便の後始末をするではないか。ペットを飼うことが子供の情操教育になるということをよく耳にするが、世話をしなければならない相手に対する責任感のようなものが、子供らに芽生え始めたのではないかと実感させられた。
 一方、自分におきている変化が早起きである。嵐は朝5時前後に起きるが、ほったらかしておくと少々うるさいので、その相手をするのは自分の役割である。そのため出勤で家を出る2時間以上も前に起きたり、休日にも早起きしたりといった、今までの自分では全く考えられない新しい朝のスタイルが始まった。早起きは三文の徳との格言どおりであることは言うまでもないが、意図的かどうかは別として、自分が苦手としていた朝を克服したということが何よりも気分がいい。
 大学入学、就職、結婚、子供の誕生等の変化がおきると、それまでの生活スタイルが大なり小なり変わる。今回犬を飼い始めたことは、自分や家族にとってそんな変化のひとつとなった。早起きの習慣がこれから寒くになっても続くかどうかは自信がないが、嵐がもたらした変化は、今のところ家族に良い影響をもたらしていると言える。嵐は今後も我が家に多くのことを教え、与えてくれることと思うが、そんな生活を楽しんでいきたい。

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