会員寄稿(4)
洛友会会報 226号


地球二周の船旅

松本慎二(昭40年卒・東京支部)

  この一年間に、念願だった船の旅を2回しました。まず、2008年1月から108日間で南半球(横浜―香港―ベトナム―シンガポール―セイシェル―南アフリカ―ナミビア―ブラジル―アルゼンチン―南極大陸パラダイス湾―チリ―イースター島―タヒチ島―ニュージーランド―オーストラリア―ラバウル―横浜)を一周し、さらに今年4月から112日間で北半球(横浜―アモイ―シンガポール―ヨルダン―スエズ運河―エジプト―ギリシャ―イタリア―スペイン―フランス―スウェーデン―ロシア―フィンランド―デンマーク―ノルウェー―北極圏―アイスランド―ニューヨーク―ベネズエラ―パナマ運河―コスタリカ―メキシコ―バンクーバー―横浜)を一周しました。
 経験して分かった船旅のメリットは、なによりも体力的に精神的に楽なことです。船酔いや疲れ・体調不良を感じたらいつでも自分専用の部屋で休めます。荷物は自宅で宅配業者に引き渡せば自室まで運び込んでくれるし、帰国時も税関を通る時以外は自ら運搬することもありません。船内に数ヵ所あるバーや居酒屋で閉店時間まで飲んでも、タクシーを呼ぶ必要もなく、数分歩けばベッドに辿り着けます。
 また、旅行期間の9割を占める洋上航海中は様々な事件に巻き込まれる心配は少なく、航空機に比べると事故に対する恐怖感も小さい。船内での人間関係が煩わしくなったら自分の城に籠れるし、時差ボケにも悩まされません。実際、船客の中には歩行に杖が要る高齢の方、補助が欠かせない障害のある方や車椅子の方が少なくありません。船の旅行ならゆっくりと、安全にしかも快適に世界の果てまで運んでくれるからでしょう。
 帰国後、私の体験話を聞いた人はほぼ全員、「退屈しなかった?」とまず尋ねます。正直なところ、私は退屈とは無縁でした。退屈どころか、自分の好奇心をしっかりとコントロールしないと毎日が慌ただしく時間が過ぎ去ってしまうほど船上には興味あることがいっぱいあります。


ケープタウンのテーブルマウンテンを背に船友と

 船の催しと言えば誰もがイメージするダンスパーティは、私が乗った船の場合、横浜出航直後と帰港直前及び中間に開催される3回のフォーマルディナーの際に開かれるだけで意外と少ないのですが、その他に寄港地から立ち替わり乗船してくる日本人や現地人の講師やエンターテイナーによる、環境、格差や平和などの最近のトピックや訪問地に関係する様々なテーマの講演会、あるいは民族色豊かな音楽会やダンスショー、航海中のほぼ全期間にわたり開講される外国人教師による有料と無料の英語やスペイン語の語学研修、赤道祭りや運動会、ファッションショー、お笑い大会、カラオケ大会、盆踊り、大ホールでの週1回程度の和・洋映画の上映、部屋のテレビで毎日2本の映画の放映、ほぼ毎朝の落語ビデオ鑑賞会など盛り沢山です。
 このような旅行会社が用意したものとは別に、乗客自らが企画実行する催しが早朝から深夜まで毎日20件以上もあります。特に社交ダンスは教える人も習う人も多く、日に3〜5回の講習会が開かれます。健康法も大変人気が高く、早朝からラジオ体操やヨガ、太極拳、気功、指圧、ボクササイズなどが繰り広げられます。さらに、オカリナ、ギター、二胡、三線などの楽器講習会、手芸や編み物、書道、フラダンス、シャンソンコンサート、体験を本にするための講習会、お金の儲け方講座、麻雀、囲碁、将棋、トランプ・・・とても全部を挙げられません。これらを企画する方の多くはそれを楽しみに繰り返し乗船するリピータです。この他、ジム、プール、スポーツデッキでの運動も盛んです。また、船内新聞発行のお手伝いや、船内テレビ放送用コンテンツの制作や船内で使用する音響機器の設置支援などのボランティア活動に汗を流す乗客もいます。
 私が乗船したピースボートの場合、部屋の種類が1人部屋から4人部屋まで、バルコニー付きから窓なしまでとバラエティに富んでいて、船旅価格は最低148万円から最高350万円と他の会社と比べると格段に安いというのが大変魅力的でした。
 昨年乗った船は総トン数3.1万、今年は3.9万で、いずれも乗客定員は約1500名で、約50年前に欧州で建造され、欧米航路などで活躍した当時の豪華客船で、老貴婦人の風格が漂います。乗客はほぼ全員が日本人(幼児から90歳超)で南回りの時は約千名、北回りは5百名、その内6割以上が女性、また親子、夫婦、兄弟などの組み合わせは少なく10%もいない様子、また55歳以上が6、7割で20代、30代が2、3割。学生や休職中のような方も見受けますが、退職者が圧倒的に多い。余談ですが、船の中で知り合って婚約や結婚に至るケースが2件ありました。堅苦しいドレスコードはなく、誕生会への出席など特別の場合を除いてカジュアルな服で過ごせます。食事は、ほぼ日本で食べるような和洋エスニック料理がいろいろ出てきて、味もまずまずでした。
 2回の船旅で約11万キロを航海し、世界の主だった海洋・大陸・運河を巡り、延べ34ヵ国40都市21箇所の世界遺産を訪れました。
 寄港地では1、2泊することもありますが、早朝到着深夜出発が多いのでその地の観光には物足りません。もっとじっくり観光したい人は一度下船して次の寄港地で合流することになります。そのような内陸部の観光地を巡るコースや寄港地近辺を観光するコースなどいろいろなツアーが用意されていて、それに参加する人が大勢いました。私はほとんどの寄港地でそうしたツアーには参加せず、親しくなった人達と気ままに行動しましたが、内容と費用の点では大いに満足した滞在となりました。


南極大陸を背景に甲板でふざける若者達

 訪問地の観光もさることながら、刻々と変わる海と空の変化や星座を観察し、鯨など海の生き物との遭遇を喜び、フィヨルドなどの陸の景色の遠望を楽しみながら多様な人達と交流することこそが船旅でしか味わえない醍醐味ではないかと思いました。そして、しがらみのない自由な空間で、今までの人生とは異なる時間の流れを味わい、100%自分の思う通りに生活しながら、この先の人生を展望し、その準備と予行演習ができたことが私にとって一番大きな収穫でした。

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