巻頭言

洛友会会報 227号


今年も明るい希望をもって

洛友会会長 
長尾 真(昭34年卒)


 新年明けましておめでとうございます。今年も皆様それぞれにとりまして良い年でありますようお祈り申し上げます。戦後初めての本格的政権交替という状況を迎え、いろいろと混乱もあり心配も多いわけですが、半世紀間つづいて来た日本の体質を変えてゆく過渡期でありますから、もう少ししんぼうして見守ってゆくことが大切かと存じます。
 洛友会は会費納付者の漸減傾向が相変わらず続いているのは残念であり、卒業式のあとの送別会に出席して洛友会の会費納入を訴えたり、各支部長さんにも努力をお願いしたりしております。また学部学生を学生会員として、教室での学生に対する懇親活動を洛友会が積極的に支援して、洛友会のもつメリットを学生時代から実感してもらい、卒業後も先輩との交流を深めていってくれるよう努力しております。皆様にもぜひ洛友会活動に積極的に参加していただき、社会のいろんな所で活躍している先輩、同輩、後輩と交流していただき、人的ネットワークを広げていっていただくことを期待しております。
 近年電気電子工学科、また情報関係学科の人気が全国的に下って来ております。京都大学の入学試験においても合格者の最低点が工学部の中で最下位となったりし、また平均得点においても急激に下っているとのことであります。電気電子工学分野の不人気がどういうところに原因があるのか定かでありませんが、何とかしてこれを克服する必要があります。
 そういうことを考えておりました時に、私の同期生の伊藤俊一氏(昭和34年卒、元関西電力常務)から、伊藤氏も有力メンバーである電力発展史研究会が作ったという本をご恵送いただきました。次のような本であります。
 
 忘れられたルーツ
  ―電力産業120年の浮沈とこれからの100年―
  ジャック・カサッザ原著、EIT電力発展史研究会訳補・編
  日本電気協会出版(1700円)

 この本はカサッザ氏の原著の日本語への自由訳である第1章に続いて、伊藤氏を含む研究会の人々が書いた日本の電力の歴史と将来の課題(第2,3,4章)からなるもので、電気電子工学分野に従事して来た我々にとって多くのヒントを与えてくれ、また大きな希望をも抱かせてくれるものであります。特に第2章は日本の電力発展史に関心のある方にはぜひ読んでいただきたい内容であります。
 カサッザ氏は米国の電力業界の重鎮でありますが、短期的利益の追求という考え方や、市場経済万能主義、行過ぎた放任資本主義、技術軽視などがアメリカ社会でどうして生じたかといったことを2003年に起った北米の大停電などの例をひいて説明し、この風潮がいかにアメリカ電力界を蝕み、その健全な発展を阻害して来たかを鋭く指摘しておられます。この指摘は氏の卓越した見識によるものと存じます。そしてエネルギーシステム、なかでも電力システムは人類のほかのすべてのシステムと経済活動という命を維持するための血管網であり、今後ますます重要になってゆくことが述べられています。
 この指摘は情報分野にいる私にとってもなるほどと感心させられるものでありました。皆様もご存知かと思いますが、世界中の知識・情報を集積して全ての人々に提供するとして頑張っているグーグルという企業は世界中のインターネット情報を刻々と収集するとともに、グーグルマップ、ストリートビューや全世界の書籍の電子検索などをやりつつありますが、そのために想像もできないような数の巨大な記憶装置を並べた工場を砂漠の真ん中にもっております。そしてその記憶装置群を働かせるための電力供給が不足してくるので、記憶装置工場の傍らに発電所を建設するというのです。これをみても情報分野においても巨大な電力エネルギーなしにはシステムが成りたたないという時代になって来ていることが分かります。そこでアメリカでは国として火力、水力、原子力、風力、その他種々の電力発生源を統合的にコントロールしてエネルギー損失をできるだけ少なくて効率のよい電力の発生、送電、消費のネットワークを作るスマートグリッドというプロジェクトを開始しているわけです。これは電力技術と情報技術の結合した非常に面白いシステムであります。電気系教室でも情報学研究科の松山隆司教授と組んで生活環境における多様なエネルギー(電気、熱、風など)の供給と消費を最適にコントロールすることによって超省エネルギー生活環境・コミュニティを実現し将来のエネルギー問題に対処してゆくという研究をしておられ、その成果と実用化が期待されているところであります。
 電池(バッテリー)などは大学の研究の対象ではない古くて進歩のない技術だと20年、30年前は半ば見捨てられていたのですが、今日では電気自動車をはじめ、パソコンの長時間電源などのために脚光をあび、巨大な研究開発投資が行われ、京都大学工学部でも昨年名誉教授になられた小久見善八先生などは日本中で引っぱりだこで、大きな研究プロジェクトをひきいて大活躍をしておられます。
 このようなことからも、今は電気電子分野の人気があまりないのは事実でしょうが、将来はまた大きく脚光をあび優秀な学生が集まってくる分野になるでしょう。そういった希望をもって今年も明るく過ごしてゆきたいものであります。

 


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