会員寄稿(3)
洛友会会報 227号


イッツ・ア・ディスティニー

大橋俊和(昭60年卒)

 洛友会会員になって25年である。大学での思い出は尽きないが、知らず知らずに忘れきっていた。しかし、ある出来事をきっかけに記憶が甦り、それと共に人間関係が活性化し始めている。
 そのきっかけとは私の恩師、松本紘先生の京都大学総長就任である。
 松本先生とは大学4年生の時、宇治の超高層電波研究センターのゼミで初めてお会いした。仁王のような面構え、散弾銃のような弁舌に圧倒された。氏は、青白いエンジニアではなく、文武両道、心身充実たる、日本を背負って立つ人材育成をという教育者としての高い志で我々を育ててくれた。後日、氏が私の高校(奈良女子大附属高校)の大先輩であると知り、さらには家庭教師の生徒(今や39歳)が氏のご子息と同級生という偶然も重なって、私はこの出会いを運命と感じていた。1992年、私が30歳の時、結婚の媒酌人を氏にお願いしたところ、多忙にも関わらず快く仲人を引き受けて頂いた。



筆者の結婚式で「新生の息吹」を歌う友人およびそれを聞く、中村先生(当時加藤研究室)、乾先生(同卯本)、松本先生(仲人)

 披露宴で氏は大スペクタクル活劇風の、友人達が身震いして喜んだ新郎新婦紹介スピーチをしてくださった。その録画テープはもちろん我が家の家宝のひとつだ。
 そんな松本の「おっさん」が2008年、京都大学の総長に就任されたのである。当時、私は、「男の更年期」を否定できない憂鬱な毎日を過ごしていた。そんな時、おっさんの活躍ぶりは最高の精力剤、例えれば、まむしをスッポンジュースで煮込み、朝鮮人参を煎じた以上のバイアグラになった。
 氏は「学問でさえもそれは真実をめぐる人間関係が成している。いわんや政治経済、いわんや芸術」と発言されている。この主張に私は大変感銘し、以来人間関係の充実に努力を続けている。
 
 ここでは、運命を大事にして、グローバルな人間関係の礎を築きつつある一例を紹介し、先生への感謝に代えたい。

 2008年の米国アカデミー映画賞は、「スラムドッグ$ミリオネア」(英国作品)が作品賞含む8部門を受賞した。と同時に外国語映画賞には日本の「おくりびと」が輝いた。「スラムドッグ$ミリオネア」の舞台はインドで、原作者は現大阪インド総領事のヴィカス・スワループ氏、オバマ大統領と同じ48歳の外交官である。また「おくりびと」は本木雅弘氏がインド・バラナシで死と生の連続性を悟り、10年余の曲折を経て生んだ作品だ。原作者である青木新門氏は昭和12年に富山で生まれ、満州で終戦を迎えた。引揚途上では妹を失う不幸に遭遇するなど戦後日本の苦労の生き字引みたいな方である。
 さて、スワループ氏が大阪に着任されたのが8月だ。丁度ヒロシマの平和記念式典では麻生総理大臣が核兵器廃絶を訴え、オバマ大統領への期待を熱く語った。8月は私の父の命日月でもある。亡父は広島で生まれ育ち、13歳にして図らずも原爆投下時の広島に居合わせた不幸な被爆者であったが、資源の無い日本にとってエネルギー保障が国家生存の要であり、原子力の平和利用こそが現実的な解決策だという考えであった。親父の思いはDNAとして私に引き継がれていて、私は運命として関電を選んだのかもしれない。
 ・・・こんな話を青木新門氏にメールした。すると即座に青木氏から「大阪インド総領事のスワループ氏に拙著を渡して欲しい」と「Coffinman」(納棺夫日記の英訳書)が送られてきた。運命に動かされるように私はインド総領事館を訪問し、伝令を果たすと共に、一歩踏み込んでスワループ氏と青木氏の出会いを提案してみた。すると御両名とも「イッツ・ア・ディスティニー」と喜ばれて、あれよあれよと明日会うことになっている。(追補:平成21年11月25日に会った)



11月25日にお会いした証拠写真。左から青木氏、小生、大橋の家内、SWARUP氏です。(於:大阪インド総領事館)
   

 アカデミー賞を受賞した2つの映画の原作者が私の一通のメールをきっかけに関西で運命的に出会い、親交を重ねていただくことを願う。さらには松本のおっさんらと共に、世界に向かって普遍的な「生存へのドクトリン」を発信して欲しい。中味は白黒まだわからない。しかし白と黒の間に、究極のメッセージが必ず見つかるはずである。それを捜すためにも、私は引き続きおっさんの薫陶を受けた一人として、洛友会の一員として人間関係の充実に励み、社会に貢献していきたい。
 8月が鎮魂の月であることは変わらない。しかし、私は実は8月生まれでもある。オバマ大統領も8月4日生まれだと聞いている。
 生と死はつながっている。きっと、そういうことなのだろう。



筆者の写真。バックの高い建物が関電本社です。ここの38階(上から3F目)に普段はいます。





  ページ上部に戻る
227号目次に戻る



洛友会ホームページ